陰謀 〜奈落へのカウントダウン〜 前編
寺院探索の仕事が終了してから1週間が経ったある日のこと…西町の酒場、ブレイヴ・クルーズ・インは相変わらずの大盛況。この日も冒険者と船乗りでごった返していました。
バーク 「ホレ、燻製ソーセージだ!」
船乗りA 「おお、こいつはありがてぇや!」
冒険者A 「ひでぇよバークの旦那! そりゃ俺が注文したソーセージだろ!?」
バーク 「あん? そうだったか? ……出しちまったもんはしょうがねぇ、仲良く半分ずつにでもしたらどうだ?」
冒険者A 「そりゃあねぇよ!!」
全員 「はははははは!!」
そんな中…店のドアがゆっくりと押し開かれました。立っていたのは他の客とは比べものにならないほどに上品な服装をした中年の男性でした。
船乗りB 「おい…あいつ、東町の役人じゃねぇか? 確か…ペンズとかいう…」
船乗りA 「ああ、そのはずだ…なんだってこんなとこに…」
冒険者A 「また入札か?」
冒険者B 「かもな…でも、俺あいつ嫌いなんだよなぁ…なんていうか、あの高圧的な態度が…」
冒険者A 「違いねぇや。」
トーチ・ポートには「入札」と呼ばれる制度があり、東西の対立問題を中立な冒険者に入札して解決してもらうことがあったりします。この男は東町の高級役人で、その名をランデル=ペンズといい、西町のハーティという男と共に冒険者に声をかけて入札を行っていることで有名です。その男が、何故か1人でブレイヴ・クルーズ・インへとやってきたのでした。
バーク 「らっしゃい。独りで来るなんて初めてじゃないか? ここにゃお前さんが飲みたがるようなもんはないぜ?」
ペンズ 「………………………。」
そんな皮肉に対して、ペンズは口をパクパクと開く素振りしか見せません。
バーク 「あン? なんだい? 聞こえねぇよ?」
冒険者A 「なんだなんだ!? 独りだからビビってるのかい、ペンズの旦那よぉ!!」
全員 「ははははは!!」
ペンズ 「……………。」
ディザーカ 「もしかしてアンタ…喋れないのか?」
ペンズ 「………………………。 (コクコク)」
バーク 「ハッ! バカ言うなよディザーカ! こいつはな、憎まれ口なら右に出るものはいないぐらいの男だぜ?」
するとペンズは、ディザーカにペンで字を書くジェスチャーをして見せました。紙とペンを欲しがっていることに気づいたディザーカは、注文用に備えてあるペンとメモ帳を渡しました。すると…
ペンズ 「「いきなり失礼、私の名はランデル=ペンズ。東町の役人をやっている者だ。」」
ディザーカ 「ふんふん、それで?」
ペンズ 「「今朝のことだ…朝起きたら、何故か一言も喋れなくなっていたんだ。」」
ディザーカ 「なんだって!?」
ペンズ 「「ヒルガ大聖堂にも行ったんだが、どうやら呪いや病気の類でもないらしく…もうどうしたらいいかわからんのだ…」」
ディザーカ 「それで…なんだってこの店に?」
ペンズ 「「この店では過去に何度か入札を行ったことがある。もしかしたら顔見知りの冒険者が何か知っているかもと思ったんだ…」」
ディザーカ 「なるほど。」
ペンズ 「「しかし、どうやら西町での私の評判はひどいもののようだな。私が店に入ってきただけで、ほとんどの客が出て行ってしまった。」」
ディザーカ 「…なんかかわいそうだな…よし! 俺がなんとかしてやるよ!」
ペンズ 「「ほ、本当か!?」」
ディザーカ 「ああ! オッサン、いいよな!?」
バーク 「ったく…好きにしろい。どうせ店はこんななんだ。お前がいなくても大丈夫だ。」
ペンズ 「「ありがとう青年よ! よければ名前を教えてくれないか!?」」
ディザーカ 「ディザーカ・ヘディだ。」
ペンズ 「「そうか…それではディザーカ君、よろしく頼む。」」
ディザーカ 「ああ、任せとけ!」
レオン 「ふぁ〜あ…今日はやけに空いてるなぁ。」
ディザーカ 「おうレオン、いいところにきたな! お前も手伝ってくれ!」
レオン 「んあ? なんだ、なんか事件か?」
ディザーカ 「ああ、この人の声が出なくなっちまったんだ。一緒に直す方法を探してくれ。」
レオン 「別にいいけど。」
ペンズ 「「すまない、助かる。報酬はそれなりの額を約束しよう。」」
レオン 「ああ、それならOKだ。…で、まずどうするんだ?」
ディザーカ 「「とりあえずもう1回聖堂に行ってみよう。あとは、イリードに何か聞いてみるってのもいいな。」」
レオン 「じゃあ、とりあえず東町の方に行ってみるか。」
こうして3人は、東町へと歩いていきました。さすがに役人と冒険者が並んで歩くと、周囲の人々の視線を集めてしまいます。ちょっと気まずいのか、ペンズ氏はコソコソとしている様子。一行は東町をどんどん進み、ヒルガ大聖堂へとやってきました。
アリシュア 「あら、みなさん。」
レオン 「アリシュアさ〜ん! おははようございま〜す!」
アリシュア 「レオンさん、もうお昼過ぎですよ。」
ディザーカ 「実は、この人がちょっと困ったことになっててな。」
アリシュア 「そのようですね。ちょうど今、司祭様とそのお話をしていたところです。」
司祭様とアリシュアを加えた5人でいろいろと状況を整理することに。朝早くに聖堂を訪れたペンズ氏は、リムーヴ・カースやリムーヴ・ディジーズなどの様々な信仰呪文を試してもらったのだとか。しかし効果はまったく現れず、お昼を過ぎた今でも一言も喋れない状態。
アリシュア 「困りましたねぇ…原因がわからないのでは手の施しようがありません。」
ディザーカ 「イリードにも声をかけてみないか?」
アリシュア 「そうしてみましょうか。司祭様、彼らに同行してもよろしいでしょうか?」
司祭 「うむ、必ずやそのお方を救ってさしあげるのだぞ?」
アリシュア 「はい、ペイロア様のお導きのままに。」
こうして聖堂を出た4人は、イリードを探すことに。この日は魔法学院は休日ということで、銀鈴館に行って呼び出してもらうことに。数分後、眠たそうなイリードが目を擦りながら4人の前に現れました。
イリード 「…………………。」
ディザーカ 「よぉ、イリード!」
イリード 「……なによぉ……」
アリシュア 「ね…眠たそうですね…」
イリード 「……実際眠いのよ…徹夜明けでやっと眠りにつけたっていうのに…」
ディザーカ 「そう言わないでくれ、この人が困ってるんだ。」
イリード 「…あら…その人………確か東町の役人さんじゃなかったかしら?」
ペンズ 「…………………。 (コクコク)」
イリード 「で、この人がどうしたの?」
レオン 「声が出なくなっちまったらしいんだ。」
アリシュア 「聖堂でも様々な信仰呪文を使用してみたんですが…まったく効果がなくて。」
イリード 「それも…妙な話ねぇ…」
ディザーカ 「おい、寝るな! お前も手伝ってくれよ!」
こうして4人とペンズ氏は、再び状況を整理するためにカフェへ。前日までは普通に喋ることができたらしいので、昨日のことについて詳しく聞いていくことに。すると、いくつか引っかかる点が出てきました。その中でも、特に一行が怪しいと思ったのが、贈り物として夕方に届いた葉巻のこと。
アリシュア 「その葉巻というのはどなたから?」
ペンズ 「「ヴァルグ・マイザーという方で、私と同じ東町の役人だ。あの方には今でもいろいろとお世話になっている。」」
レオン 「ふ〜ん…で、アンタその葉巻は吸ったのか?」
ペンズ 「「ん? ああ、1本だけな。」」
アリシュア 「どう思いますか?」
レオン 「確かに怪しいけど…」
ディザーカ 「う〜ん…本当にそのヴァルグって人から届いたのか? その葉巻は。」
イリード 「それより目的よ。喋れなくしてどうするのかしら? 単なる嫌がらせにしてはどうも間接的な気がするし。」
一行は手に入れた情報を基に、二手に分かれて調査を開始することに。数時間かけて行われた情報収集の結果、様々なことが判明しました。まず、ペンズ以外にも声が出なくなった役人が2人いること。そしてその2人のもとにも葉巻が届いていたということ。そして極めつけは、ヴァルグ・マイザーが「わしは葉巻など贈っていないぞ。」と証言したこと。
アリシュア 「…つまり、この葉巻が原因…ということでしょうか?」
レオン 「これ吸っただけで声が出なくなるのか…もしかして呪いのアイテムかなんかか?」
イリード 「ねぇレオン、試しに吸ってみなさいよ?」
レオン 「何言ってんだよお前バカか!!」
イリード 「じょ、冗談に決まってるでしょっ!!」
ペンズ 「「他の2人も会議に参加する者達か…これでは東町側の発言権が…」」
ディザーカ 「会議? なんの話だ?」
ペンズ 「「1週間後に、西町と東町の有力者同士が集まって開かれる会議があるんだ。」」
全員 「………………………。」
ペンズ 「「東西問題の今後の方針や平和橋付近の利権問題など、重要な議題が山ほどある大事な会議だ。このままでは…」」
アリシュア 「犯人の目的って…コレなんでしょうか?」
レオン 「そうなんじゃないのか?」
イリード 「まぁ…確かに影響は出るだろうけど…」
ペンズ 「「改めて頼む、なんとか会議までに声が出せるようにしてくれないか!」」
ディザーカ 「おう、安心しろ! 絶対に何とかしてやるからな!」
イリード 「まずは治療法を見つけないとね。」
アリシュア 「確かにそうですね。でも…どうしましょうか?」
レオン 「聞き込みでもしてくるか?」
イリード 「魔法院の図書館に行ってみる? あそこなら何か分かるかもしれないし、あたしの在学証使えば入館料もタダよ?」
ディザーカ 「じゃあ、また二手に分かれて調べてみよう!」
再び情報収集に励む一行。図書館組の出目がよく、万病に効くとされる「月の森の霊薬」という情報を入手します。これはトーチ・ポートから東に行ったところにある月の森に住むエルフが、長い年月をかけて作り続けている秘伝の霊薬で、書物によれば、万病に効き、呪文が効果を及ぼすことができない奇病や呪いにさえ効果があるとのこと。他にこれといった収穫はなかったので、一行はこの薬に賭けてみることにしました。
この段階で日は沈みきっていたので、月の森に向かうのは明日にして、ゆっくりと休むことにしました。その間、ペンズには信頼のできる人間に交代で護衛をしてもらうように忠告しておきました。
しかし…深い闇の中で希望を掴みかけたペンズに、さらなる不幸が訪れます…翌日、集まって準備を完了させた一行のもとに、ペンズの使用人が必死の形相で飛び込んできました。
ディザーカ 「よし、じゃあ準備はいいな! 行くぞー!」
ペンズの使用人 「みなさん、た、大変です!」
アリシュア 「ど、どうしたんですか!?」
ペンズの使用人 「ペンズ様が! 今度は耳が! 耳が聞こえなくなってしまったんです!」
イリード 「なんですって!?」
屋敷を訪れた一行の目に飛び込んできたのは、失意に暮れるペンズの惨めな姿でした。なんとか筆談はできますが、ペンを持つ手すら震えており、紙に書く文字も「助けてくれ」の言葉のみ…たった2日でこれほどまでに追い込まれるとは…この葉巻はいったいなんなんでしょうか…
必ず治療薬を持って帰ってくると約束し、一行は東へ。月の森は、東に45マイルほど進んだところにあるグランビルという町のさらに東にあるようなので、まずはグランビルを目指すことにしました。ちょうどグランビルの町に向かおうとしている行商人を発見したので、馬車の護衛を交換条件に同乗させてもらうことにしました。
街道沿いはなんとも平和なもので、たまにライオンとか出てきましたけど、アリシュアがコーズ・フィアーで追っ払ってくれたので無傷のまま進むことができました。
日も沈みかけ、あと数マイルでグランビル…というところで、馬車の前に突然3つの人影が…