第08話 託されし想い
数々の困難を乗り越えた結果、かつてないほど貧乏になった一行…このままじゃ、グリッラクスを発つことはおろか、当面の生活費すら切り詰めなければなりません。
どうしたものかと悩んでいる一行に、ミューが儲け話を持ち込みます。
ミュー 「仕事……請けてきた……」
ルイン&レイム 「…またか…」
グレン 「仕事?」
ミュー 「北東の山岳地帯にある鉱山の1つ…事件が起こって閉鎖されてる。」
レイム 「事件だって?」
ミュー 「呻き声が聞こえるって……」
全員 「……………………。」
またもや勝手に仕事の依頼を請けてきたミュー。お説教の1つでもくれてやりたいところだったんですが、多額の借金を返済しなきゃいけない相手(グレン)が目の前にいるため、文句も言えません。仕事の内容は以下のようなものでした。
グリラックス北東の山岳地帯にある鉱山の1つから、遺跡が出土しました。しかし、それ以来坑内には怪しい呻き声が広まるようになったのだとか。そのせいで、亡霊がさまよっているに違いないと炭鉱夫たちが怯えて、作業が全然進まないのだそうです。これを解決してくれた冒険者に、報酬を支払う…というお仕事。
すでに引き受けてしまった以上、いつまでも文句を言ってられません。一行は準備を整えて、北東の山岳地帯を目指して出発しました。
道中は何事もなく、数時間歩くと、目的の鉱山の入り口に到着しました。入り口は不思議なオーラに包まれており、「善なる者には道が開かれる」と彫られた壁がありました。
この壁に善属性のPCが触れると、先に進めるようになるのですが…現時点で善属性のPCは、レイムのみ。残りは3人とも中立でした。
ルイン 「善なる者…か、どんな仕掛けかは知らんが、正しい心を持ってさえいればこのような… (壁に触れる)」
ミュー 「…何も起きない…」
ルイン 「な…なんだと!? どういうことだ!! 私が悪党だとでも言いたいのか!!」
グレン 「ただ触るだけじゃだめなんじゃないですか? 何か他に仕掛けがあるのかもしれないですよ?」
レイム 「そうだね…それじゃあ、まずはその仕掛けとやらを探した方がいいんじゃないのかい? (壁に触れる)」
レイムが触れると、壁が凄まじい光を放ち、消滅していく…
レイム 「あ…あれ? どういうこと?」
ルイン 「…………………………。」
善属性のレイムが触れたら、壁はアッサリ消滅しました。ルインはというと…かつて見たこともないような呆然とした表情で、その場に立ち尽くしていました。実直に生きてきた彼女の人生を否定するかのようなアクシデントでした。
壁の向こう側の細い通路を抜けると、大きな部屋に出ました。そこにはドワーフの姿をした亡霊が2人立っていました。武装したドワーフに対して思わず身構えるPC達。そんな彼女達を見て、彼らが口を開きます。
ドワーフ 「試練だ…善なる者達よ…」
ミュー 「……試練…?」
グレン 「何の試練だって言うんですか?」
ドワーフ 「汝らが石を持つ者として相応しいかどうか…それを見極めるための試練だ…」
ミュー 「………石…?」
レイム 「ちょっと待ちな! 石っていったいなん…」
ドワーフ 「その力…我らに示すがいい…いくぞ…」
満足な答えが得られぬまま、戦闘が始まりました。広い部屋で5対2という圧倒的優位な状態。敵のレベルは我々よりも低いので、よほどのことがない限り負けたりはしません。苦戦もせずに難なく撃破。
「見事だ…次の間に進むがよい…」とだけ告げると、ドワーフ達は消えていきました。すると、部屋の北東の壁が消え去り、新たな道が現れました。
<捜索>をしながら進んでいくと、剣を持った石造が廊下にズラリと並んでいました。この手のオブジェクトには、毎回PCではなくPLが過剰に警戒を示します。念入りに念入りに調べてもらうと、案の定罠が仕掛けられていました。ミューに解除してもらって奥に進むと、開けた空間が…そこにはまた、別のドワーフ達が立っていました。
ドワーフ 「試練だ…善なる者達よ…」
ルイン 「聞かせてくれ、ドワーフの戦士達よ! この先にはいったい何があると言うんだ!」
レイム 「そう!! いきなり試練とか言って…どういうつもりだい!?」
ドワーフ 「この先には…封印の輝石が眠っている…」
グレン 「封印の…輝石…?」
ドワーフ 「我々には…時間がない…早く生ある後継者に託さねばならない…」
少しばかりの進展はあったものの、やはりここでも満足のいく答えは得られませんでした。疑問を解くためには、試練を乗り越えて遺跡の最奥に向かうしかないようです。一行は、この部屋の試練も突破し、奥へと進んで行きます。
その後、同じような試練を3つ乗り越え、一行はついに遺跡の最奥、封印の間へと辿り着きます。そこには、今までのドワーフ達とは比べものにならないくらい、強く、大きな存在感を持った男が立っていました。
??? 「勇者達よ、よくぞ試練を乗り越え、ここまで辿り着いた。」
ミュー 「…誰?」
エベルク 「我が名はエベルク。この地にて、汝らのような者達が訪れるのを待っていた。」
レイム 「いったい…何のために?」
エベルク 「この輝石を託すために…そして、世界に迫っている危機を伝えるためにだ。」
グレン 「どういうことなんですか?」
エベルク 「遠い昔…この大陸で、国中を巻き込んだ大戦争が起こった。大地は焼かれ、空は荒れ、大勢の者が争い合い、命を落としていった…」
全員 「……………………。」
エベルク 「その戦争の末期に…突然、奴が現れた…」
ミュー 「…ヤツ…?」
エベルク 「…奴の名は『地の獣』…山よりも巨大な、恐ろしいモンスターだ。」
ルイン 「地の獣…だと?」
エベルク 「ああ。どこからか現れたそのモンスターは、ただただ破壊の限りを尽くした。その恐ろしさときたら、我々の今までの争いが何かの遊戯に
見えるほどに凄まじいものだった…」
全員 「……………………。」
エベルク 「地の獣の出現と同時に、各国はこの緊急事態に対応しようと、終戦と共闘の条約を結んだ。しかし…」
グレン 「しかし…何です?」
エベルク 「それまでの戦争で疲弊した国々がいくら集まったところで、地の獣を倒すほどの力はもはや残っていなかった。」
全員 「……………………。」
エベルク 「そこで、我々は各国から優れた魔術師を集結させ、地の獣を封印するためのアーティファクトを作ることにした。」
全員 「……………………。」
エベルク 「完成したアーティファクト…5つの輝石によって地の獣は封印され、世界に平穏が訪れたのだ。」
レイム 「まさか…そのアーティファクトがここに…?」
エベルク 「そう…ここには5つの輝石のうちの1つ…『風塊石』が封印されている。」
グレン 「それを…なんだって私達に?」
エベルク 「封印が解けようとしているからだ。」
ルイン 「なっ…なんだと!?」
エベルク 「元々、急いで作った代物だ。封印が解ける可能性は当時から懸念されていた。」
全員 「………………………。」
エベルク 「そのため、5つの輝石は、それぞれ大戦中に英雄と謳われた者達の手に託されたのだ。再び地の獣が現れても、封印できるようにな。」
全員 「………………………。」
エベルク 「しかし私は、輝石を守護する後継者を見つけることなく、病に倒れ、命を落としてしまった。そのため、この地で後継者となりうる者が訪れ
るのを待っていたのだ。この洞窟は、魂を実体化させる結界が張ってあったからな。」
グレン 「なるほど…」
エベルク 「しかし、いつまでもこの世に留まっていることはできそうにない…私達には時間がない…だから、早く後継者を見つけねばならない。」
レイム 「その後継者…ってのに相応しい人物を見極めるために、試練を用意したってことかい。」
エベルク 「以前は何人もの冒険者達がこの地に訪れたものだ。ある者は入り口の結界に弾かれ、またある者は試練を乗り越えられず、逃げ帰って
いった。以来、この地を訪れる者はいなくなってしまった。」
グレン 「そりゃあそうでしょう。最近までこの遺跡は土の下に埋もれていたんですから。」
エベルク 「な…なんだってー!?」
ルイン 「し…信じられんかもしれないが…事実だ…」
エベルク 「……どうりで、誰もこないワケだ…」
ミュー 「……………バカ…………」
レイム 「ま…まぁ、要するに…そのバケモノがもうすぐ復活するかもしれない。そいつを封印し直すためには、5つの輝石とやらを集めなければなら
ない…ってことだね?」
エベルク 「ああ、そうだ。再びヤツが目覚めてしまっては…今度こそ世界が滅びてしまうかもしれん。」
グレン 「具体的に、どうすればいいんですか?」
エベルク 「封印が解ける前に輝石を5つ集め、封印をかけ直してくれ。そうすれば、一時的にではあるが、再び平和が訪れる。」
エベルクの口から語られた真実は、一行にとっては衝撃的でした。金目当てで忍び込んだ遺跡で、世界を救うための冒険が始まるなどとは、夢にも思っていませんでしたし。地の獣が封印されている場所は、この大陸の中心部…グレイホーク付近にあるようです。もしそんなところで地の獣が目覚めてしまったら…間違いなく大惨事です。
事の重大さのせいか、少し全員で相談することにしたPC達でしたが、断ろうとする人間はその中には1人もいませんでした。(グレンは、自分以外の全員が賛成したためにNoと言えなかっただけっぽいけど…)
ルイン 「話はまとまった。その大任、我らが引き受けよう!」
エベルク 「そうか…やってくれるか。では、最後の試練だ。」
グレン 「し、試練!?」
レイム 「ど、どういうことだい!?」
エベルク 「輝石は、地の獣の封印以外にも様々なことに使える。よって、正しき心と、強い力を持った者にしか渡せぬ。」
エベルクは瞳に強い輝きを宿したまま、剣を抜き放ち、彼女達にこう告げました。
エベルク 「この私が最後の試練だ! 勇者達よ、見事乗り越えて見せよ!」
こうして戦闘が始まりました。最初はルインが「1対1で戦いたい。」と提案しましたが、エベルクの、「お前達全員を試さなければしょうがない。」という言葉を受け、全員で戦うことに。
イニシアチブ・ロールがブン回り、PC達が先手を取りました。グレンのスコーチング・レイがメガヒットし、その後ルインとミューが挟撃陣形を組んで大ダメージを叩き出します。エベルクも渾身の力を振り絞って反撃してきますが有効打にはならず、2ラウンド目には押し切られて沈んでしまいました。
エベルク 「見事だ、勇者達よ。私が持つ風塊石…受け取ってくれるか?」
グレン 「まぁ、成り行きとはいえ、仕方ないですよね。」
ミュー 「…………。 (コクコク)」
ルイン 「平和を願うあなたの想い…我らが受け継ごう!」
レイム 「だからもう…アンタは休んでな。」
エベルク 「ありが…とう……頼…ん…だ……ぞ……」
こうして一行は、世界の平和を守るという大きな使命を背負うことになりました。残り4つの輝石を集め、再び封印を施すための旅が始まります。
エベルクの意志を胸に刻み、グリラックスへと戻った一行でしたが…翌日…残酷な運命が大きなうねりとなって、彼女達を呑み込むことになります。そう…今後、長きに渡って戦い続けることになる相手…邪神の腹心を名乗る、『組織』との対決が始まろうとしていたのでした。