第10話 魔術師の忘れ形見
前回、謎の組織の構成員、シュリエックの妨害を乗り越えた一行。イグルアを守りきれず、肝心のシュリエックも取り逃がしてしまうという悔いの残る結末を受け入れることになってしまいましたが…いつまでも落ち込んではいられません。気分を新たに、グリラックスを出発し、北西のジャーナーを目指して旅を始めました。
ジャーナーまでは約200マイル…一息で進もうとすると、以前のようにとんでもない大冒険になってしまうので、今回は中継地点を設けることにしました。グリラックスから北に65マイル進んだところにあるイーストパス…今回の冒険はそこで始まります。
イーストパスは、人口は1万5千人ほどで、東に連なる山脈から良質の鉱石が取れるためか、鉱業が盛んな町です。町はどこも活気に溢れており、人々はみな幸せそうに生活していました。
宿の手配を済ませ、そこからは自由行動。名物料理に舌鼓を打ったり、土産物を眺めて回ったり、武器や防具を見に行ったりと、それぞれが思い思いの行動を取って初日は終了。2日目は旅支度。食料の買い足しなどを済ませた後、シュリエックやグレンの動向など、情報収集も行いました。
グレンに関しての情報は手に入りませんでしたが、シュリエックの情報は…さすがにアレは目立つので、いくつかの目撃情報が手に入りました。
酒場で「オカマ」だの、「怪しいヤツ」だのと言われて激怒したらしく、町中でモンスターを召喚して大騒ぎを起こしたのだとか…さすがに指名手配され、もうこの町にはいないだろうという話ですが…なんというか、PCよりもキャラ濃いですね…あのオカマ…
先回りされているのは事実ですが、この町で罠を張っているということはおそらくないでしょう。ちょうどいいので、マークが外れているうちに路銀を稼いでおこうという話が持ち上がりました。…冒険者はビンボーなんです…毎度のように、ミューがどこからか仕入れてきた怪しい情報を一行に披露します。
ミュー 「…町の東の鉱山地帯…廃棄された作業場がある…」
ルイン 「作業場って…そんなところに行ってどうするんだ?」
ミュー 「廃棄されてからしばらく…魔術師が実験場として使っていたみたい…」
レイム 「魔術師…実験場…ああ、なるほど。」
ルイン 「…は、話が見えてこないんだが?」
ミュー 「魔法のアイテム…まだ残っているかも…」
レイム 「うん、行ってみる価値はあるかもね。」
怪しい雰囲気は漂いますが、確かに珍しい物品が眠っているかもしれません。早速一行は、準備を整えると共に、その作業場兼実験場についての情報をもう少し集めることにしました。
調べてみたところ、その廃坑には数々の財宝が眠っているらしく、今まで多くの冒険者が挑んだが、奥まで行って帰ってこれたものは一人もいないのだとか…さらに、入り口付近にアンバー・ハルクがいたり、洞窟の近くにワイヴァーンの巣があったりと…PLがさじを投げたくなるような要素がてんこもりです。果たして割りに合うのかどうか、心の底から心配になってきました。
アンバー・ハルクについての情報収集をしたり、ワイヴァーンの毒針に対処できるように道具や呪文を準備し、最後に心の準備を整えて、魔術師の実験場に出発しました。
途中の遭遇ロールでビクビクしながらダイスを振るが何も出ず、ホッと胸を撫で下ろす一行。イーストパスから2時間ほどで、目的の廃坑に辿り着きました。
入り口での<聞き耳>判定の結果、物音は一切なし。ランタンに火を灯しながら、ミューが<視認>判定。すると、出目がブン回ってとんでもないことがわかります。洞窟内は鍾乳洞のようになっているのだそうですが、70フィート先の天井に何か人影のようなものが張り付いているとのこと。
十中八九モンスターなので、こちらも容赦せず、ミューにライト・クロスボゥを使って狙撃してもらいました。射程ギリギリでしたがなんとか命中。その後の落下ダメージが相まって、こちらが姿を確認する間もなくいきなり瀕死です。でもまだ生きていたので、とどめを刺すためにイニシアチブ・ロール。
敵はチョーカーというモンスター。先手を取られてしまいましたが、距離は70フィートも開いています。向こうはせいぜい走ってくるだけ…返しで距離を詰めて一気に畳みこもう…と思っていたら、なんと信じられないスピードで間合いを詰め、触手による攻撃でルインにダメージを与えてきました。これには一同驚愕! …しかし、やつの見せ場はそこだけでした。その後のルインの反撃を直で喰らい、二度と動かなくなりました。
チョーカーの屍を乗り越え、奥へと進む一行。少し進むと、道は幅10フィートの狭い通路になってしまいました。壁などはなく、足場の下には鋭く伸びた天然のスパイクが牙を剥いていました。落ちたら大変なことになってしまうので、慎重に…と思っていたら…
アンバーハルク出現ッッ!!
このモンスターの恐ろしいところは、筋力よりなにより凝視能力。目を合わせてしまうと意志セーヴを強要され、失敗してしまうと「コンフュージョン」の呪文をかけられたかのように混乱状態に陥ってしまうのです。
幅10フィートの通路に堂々と陣取られては避けることすらできません。そのまま戦闘開始。
目を合わせないように、足元だけを見て敵の動きをつかもうとするルインとミュー。凝視攻撃を避けつつ近接戦闘を仕掛けますが、道幅が狭いために回り込めず、いつものように挟撃陣形を取ることができません。効果的なダメージが与えられずに苦戦する一行に対して、アンバー・ハルクは近づいてくるPC達に容赦なく全力攻撃を仕掛けてきます。
アルが気絶状態にまで追い込まれてしまいますが、最後は力押し…ルインの攻撃がクリティカル・ヒットし、アンバー・ハルクは意識を失い、地底深くへと落下していきました。
その後、レイムに全員の傷の手当をしてもらい、奥へと進むことに。強敵を撃破したことで、一行の足取りもいくらか軽くなりました。
しかし、そんな彼女達に予想外の事態が。数歩歩いた瞬間、別のアンバー・ハルクとご対面。PCよりも先にPLの気が狂いそうになりました。
ヤケクソになって戦ってみたら、今回はPC側の攻撃が恐ろしいぐらいにブン回ります。先手を取ったミューが急所攻撃を叩き込み、その後レイムがコール・ライトニングの呪文で雷を落として大ダメージを与えます。最後はルインが突撃し、一方的な猛攻で戦闘は終了。
その後、キャリオン・クロウラーやシバリング・マウザーに足止めを喰らい、時間と戦力をかなり浪費させられてしまいます。レイムの呪文が底をついたので、この日のアタックは終了。宿屋でぐっすりと眠りました。
翌日、元気を出して再び洞窟へ。昨日探索した道をガンガン進んで行くと…何やら外套が2着落ちています。しかし、実はそれらはモンスターだったのです…宝物かと思って<捜索>しに近づいたミューに、突然襲い掛かってきました。
このモンスターの名はクローカー。近づいた人間に飛び掛り、組み付いてそのまま攻撃をしかけてくるすごくいやらしいモンスターです。高い組み付き修正値を有しているため、なかなか振りほどくことができません。こちらは組み付きから抜け出すためにアクションを消費しなければなりませんが、相手は組み付き状態のまま攻撃をしてくるので、PC達は一方的に追い込まれていきます。
最終的にルインも組み付かれてしまいますが、数ラウンド後に相手のヘボい出目によって脱出。ミューも<脱出術>を利用して対抗ロールに勝利し、離脱成功。1体ずつ挟撃で仕留め、苦戦の末になんとか勝利。1戦目から消耗の激しい戦いとなりました。
その後、ミューが<捜索>でファンブルを出し、宝物をいくつか闇に葬ってしまいすが、敵はもうほとんど残っておらず、しばらく歩くと開けた場所に出ました。空洞になっているようで、頭上からは陽光が差し込んできます。
しかし数秒後、その光は何者かによって遮られます。一行が異変に気付き、頭上を見上げたその瞬間…その空洞からワイヴァーンが飛び込んできました。オーガよりも大きな体躯に皮の翼。そして長く鋭い歯でいっぱいの強靭な顎と、サソリのように突き出た毒針付きの長い尾…1ラウンドの間に、最大で6回も攻撃してくる凶悪なモンスターです。
ワイヴァーンのいる場所へは、足場の悪い上り坂を登っていかなければなりません。通常の半分の距離しか移動できないので、守りを固めて誘い込むことに。威嚇のつもりで撃ったレイムのコール・ライトニングが直撃し、早くも勝利が見えてきます。ワイヴァーンは怒りと焦りを露にしてこちらに突進してきますが、ルインとミューが左右に展開して挟撃陣形をしき、追加のダメージを与えていきます。次のラウンド、ルインが反撃の全力攻撃を受けてしまいましたが、6回中2回しか命中せず、返しの挟撃でワイヴァーンは巨体を大地に沈めました。
苦戦必至かと思われたボス戦も、なんなく乗り越えた一行。確かな手応えを感じながら、空洞内の捜索を開始。坂の上に小さな通路があるらしく、どうやらその先が魔術師の研究所に繋がっているようです。みんなで協力して登り、狭い通路を通り抜けると、大きな開けた部屋に出ました。
その部屋には、一行が想像していた財宝などは一切なく…代わりに見たことも聞いたこともない巨大生物が陣取っていました。
その生物の名は巨大ヒヨケムシ。イラストはココを見てください。MTGのカードを元にDMが作成した今回のボスキャラです。ワイヴァーンなみの巨体と、大きく強靭な8本の脚を持った魔獣で、紅に染まる両目からは殺意しか感じられません。一行を見据えるやいなや、その巨体を持ち上げ、ゆっくりと近づいてきました。
いよいよ正真正銘、このダンジョンのボスとの戦闘です。先ほどと同じく、ルインとミューが左右に展開し、挟撃をしかけますが…恐ろしく硬い外皮と謎の斥力によって攻撃を弾かれてしまいました。続いてレイムがコール・ライトニングの呪文を唱えますが、呼び寄せた雷さえも、巨大ヒヨケムシの周囲に展開された謎の力場によって霧散してしまいました。どうやら敵の体の周囲には何かエネルギーフィールドのようなものが発生していて、呪文抵抗能力とACへの反発ボーナスを与えているようです。この実験場が放棄されたのは…この凶悪なモンスターが、ここにいた魔術師の手に負えなくなったからなのかもしれません。
唖然とする一行を嘲笑うかのように、巨大ヒヨケムシはルインに全力攻撃。大きな前脚を使った恐ろしい威力の攻撃によって…1ラウンドでHPの大半を奪い去られてしまいます。
撤退を真剣に考えもしましたが、まだ戦力に余裕はあるため、陣形を立て直しながら第2ラウンドスタート。敵の攻撃力が予想以上だということがわかったため、ミューとアルを後列まで下げ、ルインが一撃離脱を使いながら戦います。こちらも1回しか攻撃できませんが、相手のACが高いので全力攻撃を仕掛けてもどうせ1発目しか当たりません。それよりもむしろ、相手の全力攻撃を潰せることの方が大事です。引き気味のまま攻撃 → 回復を繰り返して、少しずつダメージを与えていきますが…ついに部屋の隅まで追い込まれてしまいます。
覚悟を決めて…足を止めての殴り合い。挟撃をしようにも、孤立したところを狙われたら確実に死亡してしまうので、レイムの側から離れることができません。回復量よりも敵が与えてくるダメージの方が大きく、次の一撃は耐えられないという絶体絶命の状況にまで追い込まれてしまいますが、そんな土壇場でルインの攻撃がクリティカル・ヒット! 30点を超える大ダメージを叩き出します。致命の一撃を受けた巨大ヒヨケムシは、ゆっくりと崩れ落ちていきました。
部屋の奥には鉄製の扉があり、その向こう側には研究用の道具や資金などが大量に残されていました。命を賭けたアタックがようやく報われたといった感じでしょうか。一行は手に入れた財宝をイースト・パスまで持ち運んで売却し、装備を整えて次の街を目指して出発しました。
あそこで行われていた研究…そして研究を行っていた魔術師の正体…ちかいうちにそれらすべてが判明することになるのですが、そんなこと、一行は知るよしもありませんでした。