第13話  穢れた楽園  前編




もう日も沈んだ頃、街道沿いの薄暗い森林…










グレン 「ハァ…ハァ……暗い…怖い……苦しい…辛い…もうやだ…」





フラつく身体を拾ってきた木の枝で支えながら、ボロボロになって町を目指す一人の青年がいました。そう、彼こそが8話目終了時にもらうもんもらってトンズラブチかましてくれたグレンです。





グレン 「変なオカマにはつきまとわれるし…傭兵はみんな逃げ出すし…」





実はグレンは、あれから数回にわたりシュリエック達に襲撃されていたのでした。戦う姿勢をまったく見せず常に全力で逃走を繰り返してきたおかげで、今日まで五体満足のまま旅を続けてこれたのですが、逃げても逃げても先回りされてしまうため、彼の身心は共に限界に近づきつつありました。





グレン 「こんなことなら…ゼェ…ゼェ……彼女達と…一緒に行けばよかった…」



ザッ…



グレン 「…ん?」





前方からかすかに聞こえた足音にグレンが顔を上げると、目の前に1人の冒険者が立っていました。短い黒い髪に、細身ながらも鍛え抜かれた体躯、細く鋭い両目からは静かな気迫がビリビリと伝わってきます。





??? 「こいつがターゲットか…こんなやつに手を焼くとは、シュリエックも使えんな。」


グレン 「やぁー、どうもどうも! ひょっとしてあなたもお一人ですか? さぞ心細いでしょうし、よろしかったら次の町までわた…」



…キンッ!



グレン 「し…?」





グレンの言葉を遮るように、男の腰元に携えられていた剣が金属音をあげて鞘から抜き放たれました。異変に気付いて足を止めたことで、剣はグレンの鼻先を掠めるように弧を描いていきました。





グレン 「ひっ、ヒイィィィィッ!」


??? 「ほぉ…かわせるのか。見掛けによらず、なかなか楽しめそうだな。クックックッ…」


グレン 「ななっ、いきなりなんなんですかあなたはっ!? 」


??? 「輝石を渡せ。」


グレン 「きせ……ハァ!?」


??? 「とぼけるか、まぁいい。その方が俺としても望ましい。いろいろと楽しめるからなぁッ!!」


グレン 「ヒイイィィィィィッ!!」


??? 「ハハハハハハッ!! いいぞ、いつまで避け続けられるか試してみるがいい!!」


グレン 「イイィィィィィヤアアァァァァァァッ!!」


??? 「どうした!? もっと俺を楽しませてみろ!!」


グレン 「ヒャアアァァァァッハアァァァァァッ!!」


??? 「…っぐ…このッ!!」


グレン 「キイィィィィィィエエエエエェェェェェェイッ!!」


??? 「…ハァ…ハァ……き、貴様、逃げてばかりいないで戦えッ!!」


グレン 「じょ、冗談じゃありませんよ! 誰があなたの相手なんか!!」


??? 「あっ!? おい、待て!! 逃げるな!!」





自分史上最速の鬼ダッシュで謎の剣士を振り切ったグレン。後ろを振り返ることもなく、己の限界も忘れてひたすらに走り続けること一晩…なんか勢いでニオル・ドラに着いちゃいました。

そして翌日…





グレン 「っぐ…身体が痛い…」





猛烈な筋肉痛に表情を歪めながら、這うようにして町中を移動するグレン。無事に町に着いたというものの、オカマの魔導師や根暗そうな剣士に追われている以上、一箇所に留まるのは危険です。一刻も早く、安全に身体を休めることができそうな場所を見つけなければいけません。





グレン 「ん? …あ、あれはッ!」





ルイン 「ここが"におる・どら"か、ずいぶん大きな町だな。」


レイム 「活気のあるいい町だね。さっさと宿を探して、少し回ってみようよ。」


ミュー 「…おなかすいた…」


ルイン 「ははは、そうだな。ならばまずは宿を取って食事をし…」


グレン 「アアァァァァッハッハッハッハッ!! お久しぶりじゃないですかみなさぁぁぁん!!」


ルイン 「きゃああぁぁぁぁっ!!」


レイム 「なっ、なんだい!? まさか組織の…」


ミュー 「…あ…グレンだ…」


グレン 「そうです、グレンです!! お元気でしたか?」


ルイン 「ばっ、馬鹿者っ! 町中でいきなり大声を出すなっ!」


グレン 「いやぁ、どうもすいません! 皆さんと再会できたのがうれしくてつい!」


レイム 「…っていうかアンタ! もらうもんだけもらってさっさと一人で行っちまうなんてヒドすぎじゃないかい!?」


グレン 「あはははは、申し訳ない! 生まれつきせっかちなもので! (あれ以上巻き込まれたくなかったんだよッ!)」


ミュー 「…あ…鼻のとこ…怪我してる……どうしたの?」


グレン 「あ、これですか!? ここに来る途中でモンスターに襲われた時の傷かなぁ!? (っていうか巻き込まれちゃったんだよ!)」










途中に<はったり>と<真意看破>のバトルを織り交ぜながらも、ようやく再会を果たした一行。グレンの紹介で彼と同じ宿で宿泊の手配を済ませた後、その宿の食堂へと場所を移して情報交換を行いました。お互いが手にした敵組織の情報、輝石の情報等を合わせてまとめますが…わかったことと言えば、自分達がほとんど何も知らないという現実ぐらいなものでした。

戦力で大幅に遅れを取っている以上、せめて情報面だけでもより強固にしていかなければならないということで、一行はすぐに情報収集をしに町へと飛び出しました。

ニオル・ドラで最も大きな酒場は、労働後の一杯を楽しむ人達、真剣な表情でカードを楽しむ人達、テーブルに小物と金貨を積み上げて笑みを浮かべている行商人、己の武勇伝を声高らかに語る冒険者達など、大勢の客でごった返していました。ここで情報収集を行うも、残念ながら『輝石は共鳴するらしい。』という情報以外は手に入りませんでした。





代わりに旅の吟遊詩人から変わった話を聞くことができました。ニオル・ドラから西に10マイル程行ったところに、夜にしかその姿を目撃することができない不思議な村があるのだとか…

すると、「その話なら俺も知っている。」と1人の冒険者がエールを片手に会話に入ってきました。彼の話では、その村には不吉な感じが漂っており、昔邪神のために村ごと生贄に捧げられたのではないかとのこと。しかし別の客は、天使や美しい動物達が住む至上の楽園だったはずだと主張してきます。また、噂の内容だけでなく、目撃された場所も話す人によってまちまちなのです。

地図を広げ、大勢の冒険者達に囲まれながら情報を整理する一行。すると驚いたことに、目撃した or 噂を聞いた人達の示す村の場所が全員バラバラなのです。そしてその村の場所を時系列順に並べた時、その場にいる全員が息を呑むことになりました。…なんと、噂の村は日を追うごとにニオル・ドラへと近づいてきているのです!





そんな得体の知れない村がニオル・ドラの近隣に姿を現しては、町民達に必要以上の不安と混乱を与えることになります。…いや、それだけならまだマシです。「亡者共がうろつく呪われた廃村」という噂もあったぐらいですから、場合によっては命の危険や町が崩壊する恐れだってあるのです。

この村を「無視することのできない脅威」と認識した一行は、輝石と組織の情報収集を一旦忘れて、この村の調査に行くことにしました。日中のうちに準備を整え、日が沈む前に馬車を引いて出発。










〜 数時間後 馬車の中 〜




レイム 「呪われた村…ねぇ。ずいぶんと大袈裟な噂話だよ。」


グレン (やっぱりこの人達には関わらない方がよかったかもしれない…


レイム 「…ん? グレン、何か言ったかい?」


グレン 「へ? え、いえ! 僕は別に何も、声には出してませんよ!?」


レイム 「そうかい? おかしいねぇ、空耳かな?」


ミュー 「…ねぇ…レイム…」


レイム 「ん? なんだい、ミュー?」


ミュー 「…これ…どうしよう…」





ミューおずおずと差し出した両手の上には、エベルクから託された風塊石が…しかし、輝石は微かな音を立て、淡い光を放ちながら明滅していました。





グレン 「うっ、うわぁぁぁぁっ!」


レイム 「え、ちょっ! ミュー! いったい何したんだい!?」


ミュー 「ミュー…何もしてないよ!」


ルイン 「どうした! 何かあったのか!?」


ミュー 「あ…ルイン…どうしよう!」


ルイン 「え? うっ、なな、何をしてるんだミュー!」


ミュー 「だからミューのせいじゃないってば!」


ルイン 「やっ、わかった、わかったからそれ以上石を近づけるな!」


グレン 「ひょっ、ひょっとしてこれが、今日聞いた『輝石の共鳴反応』ってやつなんじゃ!」


レイム 「あっ! きっとそうだよ! ってことはこの近くにきせ……」


ルイン 「…レイム殿?」


レイム 「ねぇ…ここ……どこなんだい?」


ルイン 「は? どこ…というのは、いったいどういう………うっ!」





慌てて馬車から飛び出した一行は自分達の目を疑いました。先程まで平原の只中にいたはずなのに、気がついた時には得体の知れない廃村の入り口に立っていたのですから。





グレン 「村が…現れた!? これって!!」


ルイン 「なるほど、ここがそうか。噂通りの不気味な村だな。」


ミュー 「なんか寒いよ…」


レイム 「悪寒ってやつかもしれないね。」





そう言いながらレイムが、続いてルインミューが、村の中へと進んで行きました。





グレン 「ちょ、ちょ、まさか中に入るんですか!?」


レイム 「決まってるじゃないか。」


ルイン 「そのために来たんだ。当然だろう。」


ミュー 「怖いけどがまんする…」


レイム 「…じゃ、気を引き締めて行こうか。」


ルイン 「ああ。」















グレン 「………こんなことなら声なんかかけなきゃよかったーッ!!







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