出会い 〜新米冒険者VS悪知恵ゴブリン〜 前編




ここはトーチ・ポートから少し離れたところにある小さな農村。この村に昨夜、大きな事件が起こりました。付近の洞穴に巣を造ったゴブリンが、村に侵攻してきたのです。村の男性達の抵抗で、その日の夜はなんとか追い払うことができましたが、村も村人もボロボロで、次の襲撃を防ぐことは困難でしょう。

そんな村に4人の勇者(見習い)が訪れることになります。

1人目はウィザードのPC、イリード。彼女は大魔道師になることを夢見て家出をし、トーチ・ポートを目指して旅をしていました。そんな彼女が最後に立ち寄ることになった中継地点がこの村だったワケですが…






すでに半壊…







女性 「うっ…うぅ……」


イリード 「あ…あの…さ、何かあったの?」


女性 「村が…村がゴブリンに襲われてしまって…」


イリード 「………………。 (うっわー…タイミング最悪…)」


女性 「きっと今夜も襲ってくるでしょう…ああ、私達はいったいどうしたら…」


イリード 「………………………。」





イリードは自分勝手でわがままではありますが、さすがにこの状況を見過ごすほどの外道ではなかった様子。





イリード 「……わかった、あたしが力を貸してあげる。だから元気出して。…村長の家はどこ?」


女性 「ほ…本当ですか? ありがとうございます! 村長の家は、あちらの大きい建物です。」


イリード 「ありがと。…ホラ、あなたは家に入って隠れてて。」





といった感じで、村に力を貸すことを決意し、村長の家に向かいました。

そしてしばらくすると、今度は2人目のPC、ローグのレオンが村を訪れました。彼は立派な冒険者となって、山ほどの財宝を持って村に凱旋することを夢見て旅をする、ハーフリングの青年です。そんなレオンが村にやってくると、負傷した村人が…





レオン 「おい、大丈夫かっ!? しっかりしろ!!」


男性 「うっ…くぅ…すまねぇ…大丈夫だ。」


レオン 「いったいどうしたんだ、この村の荒れ様は…何があったんだ?」


男性 「ゴブリンだ…やつらこの村の近くに住み着いたらしい…昨日の夜、いきなり村に襲撃を仕掛けてきやがった…」


レオン 「ゴブリンだと?」


男性 「こんなとこでくたばってられねぇ…多分今夜も襲撃に来る…急いで準備しねぇと…うぅ!」


レオン 「おい、無茶をするな!」


男性 「…だが、俺達男連中がしっかりしねぇと…村の住人達を守らねぇと!」


レオン 「俺が力を貸す、もう大丈夫だ! だからお前は休め。」


男性 「あ…あんた…その格好…冒険者か!?」


レオン 「…俺が生まれた村も、ここみたいなとこだった。だからかな…あんた達に協力したい。」


男性 「…うぅ…すまねぇ…すまねぇ…」


レオン 「気にするな。ゴブリンのことは俺に任せて、あんたはゆっくり休んでな。」





こうしてレオンも、詳しい話を聞くために村長の家に向かいました。

そして3人目のPC、ディザーカの登場です。彼は立派な剣士になることを目指して修行の旅を続ける青年です。ボロボロの村と、周囲で倒れている村人達を見て異変に気付いたのか、さっそく駆け寄って事情を聞くことにしたようです。





ディザーカ 「どうしたんだこれは? 何があったんだ?」


男性A 「ゴブリンのやつらだよ。ちくしょうアイツら…いきなり襲ってきやがった!」


男性B 「俺達にもっと力があれば…くそ!」





嘆く村人達に、ディザーカは剣を抜き、勇ましく告げます。





ディザーカ 「任せろ! 俺がゴブリン共を退治して、この村を救ってやるぜ!」


男性A 「ほ…本当か!?」


男性B 「やったな、おい! 助かったぞ!」


ディザーカ 「で、俺はどうしたらいいんだ?」


男性A 「村長のところに行ってくれ。村長なら、もっと詳しい話ができるだろうからな。」


ディザーカ 「OK、任せとけ!!」





こうして3人がそれぞれ、村長の家に向かい、集まったわけです。





村長 「おお…冒険者の方が3人も…なんと心強い…」


ディザーカ 「お前らもこの村を救うのに協力してくれるのか?」


レオン 「ああ、もちろんだ。」


イリード 「まぁ…そんなところよ。」


ディザーカ 「グゥレイトォ! 3人でゴブリン共を蹴散らしてやろうぜ!」


イリード 「ちょっと待って、あたしは戦力に数えないでよね!」


ディザーカ 「なんで?」


イリード 「あたしは知恵を貸せると思って名乗り出ただけよ。戦闘なんてできるわけないじゃない!」


ディザーカ 「でも、さっき魔法使いだって言ったろ?」


イリード 「強力な攻撃呪文なんてまだ使えないし、そもそも連発もできないのよ! …まだ始めてから1週間しか経ってないんだもん…」


ディザーカ 「1週間で魔法が使えるようになったんならたいしたもんだ。余裕だろ!」


イリード 「無理だって言ってるでしょ! 人の話聞きなさいよこの筋肉バカ!」


レオン 「でも…仮にあんたを頭数に入れたとしても、3人で巣に乗り込むのはキツくないか?」


ディザーカ 「そうなのか?」


イリード 「当たり前でしょ? 何匹いると思ってるのよ。信仰呪文が使える人でもいれば…だいぶ違ってくるんでしょうけど…」


レオン 「クレリックか…さすがに村には…」


村長 「申し訳ありません。村人にはそのようなものは…」





その時、ドアが開かれ、一人の女性が入ってきました。彼女が最後の一人、クレリックのアリシュアです。彼女も旅の途中に立ち寄ったこの村の危機を耳にし、協力するために村長に会いにきたようです。





アリシュア 「あ…あの…村長のお宅はこちらでしょうか?」


村長 「そうですが…もしやあなたも?」


アリシュア 「はい、クレリックのアリシュアです。未熟者ですが、ご助力いたします。」


ディザーカ 「クレリックだって!? グレイト!!」


レオン 「これなら…なんとかなるかもな。」


アリシュア 「では…あなた方もこの村のために?」


イリード 「まぁね…」


アリシュア 「初めまして、アリシュア・クラウルと申します。どうかよろしくお願いいたします。」


レオン 「いやぁ、ははは。俺の名前はレオン・キャット。こっちの2人は…俺の舎弟みたいなも…」


イリード 「…ハァ?」


レオン 「ばっ、こういう時は口裏合わせてくれよ!


イリード 「…舎弟? 誰が? 誰の?」


レオン 「いやっ、だからな!


イリード 「あんた寝ぼけてんの? 調子乗ってんじゃないわよ、このチビ!」


レオン 「なんだこの女、見た目と性格全然違…


イリード 「鼻の下伸ばしてデレデレして、バッカじゃないの!? ってか、自分の立場弁えなさいよ!」


レオン 「すみませんでしたっ! 以後気をつけます、イリード様!


アリシュア 「………………………。」


ディザーカ 「はっはっはっ、仲いいなぁ、あいつら。」


イリード 「ンなワケないでしょ!? 取り消しなさいよ、この単細胞!!」


アリシュア 「……神よ……これも試練なのですか……?」










こうしてパーティを組むことになった一行。すでに格付けが済んだ二人もいるようで…

村長から聞いた偵察隊の情報をもとに巣穴の位置を割り出し、奇襲をかけることに。昨夜の襲撃で向こうは疲弊していることでしょうし、今から村を出れば、正午までには巣穴に到着するでしょう。勝機を逃さずに、一気に乗じることにしました。





昼前に巣穴の入り口に到着した一行。見張りなどは立っておらず、逆に不気味な雰囲気が漂います。単に疲弊しているだけなのか…それとも罠がしかけてあって見張りなど必要ないのか…ゴブリン達の考えはまったくわかりません。










レオン 「………ふぅ、どうやら見張りはいないみたいだな。」


イリード 「そんなの見ればわかるのよ。ホラ、さっさと中の様子探ってきなさいよ。」


レオン 「…なっ、俺独りでか!?」


イリード 「当ったり前でしょ!? 探索なら任せろって自分で言ったんじゃない!! なに今さらビビってんのよ!!」


アリシュア 「そんな大声出したら見つかっちゃいますよ〜!!」


ディザーカ 「おっしゃー!! 敵はどこだー!? 俺がみんなやっつけてやるぜー!!」


アリシュア 「私の話を聞いてー!!










…なんてバカなやりとりをしながらも、ダンジョンアタック開始。洞穴の中には光苔が植えつけられており、一定間隔でうっすらとした光を放っていました。しばらく進むと分かれ道。東の方は沼地のような地形が30フィートほど続いており、ゴブリンのものと思われる橋(木の板)が架けられていました。西の方は少し開けた空間が広がっているだけ。

相談の結果、西の方から進んでみることに決定。レオンが<聞き耳>をしてみると、生き物の呼吸音が近くから聞こえるという結果が! すかさず視認判定を試みたところ、光苔の光が当たらない死角にゴブリンが2匹潜んでいました! 即座に戦闘開始です!





開戦後、近接攻撃をしかけるために前に出たアリシュアを、トラップが襲います。謎のスイッチを踏んでしまい、壁から飛んできた矢弾でダメージを受けてしまいます。続くディザーカの番、アリシュアが踏んだトラップを回避しようとして動いたら、その先にもスイッチが…隣接前からムダにダメージを負ってしまいます。そして敵はジャヴェリンを投げて攻撃してきます。なんといやらしい…しかし、ディザーカのグレート・ソードが火を噴き、ゴブリンを一撃で撃破。さらに薙ぎ払いで隣りにいたゴブリンもまとめて斬り払い、戦闘終了。





<捜索>をして少し奥に進むと、次の小部屋にもゴブリンが2体待ち構えていました。

狭い通路から部屋に向かってレオンが駆け込もうとしたその時、いきなり反応セーヴを要求されました。どうやら部屋の入り口にワイヤーが張ってあったらしく、セーヴに失敗すると足を引っかけて転倒してしまうという状況のようです。ですがレオン敏捷能力値20を誇るバケモノ…こんなチャチなセーヴに失敗するようなやつじゃあありません。難なく乗り越えて、仲間達にトラップの存在を説明します。

トラップをセーヴなしで転ばないように乗り越えるには、2倍の移動力を使ってそのマスを越えればいいだけ。ディザーカが一気に詰め寄りますが、攻撃はハズレ。続くゴブリンの番、1体は近接攻撃をしかけてきましたが、もう1体は機会攻撃を喰らってまで後方に移動を開始。露骨にディザーカを陥れようという臭いが漂いますが、その程度の演出じゃあこのファイターは止まりません。忠告するイリードを無視して突貫…すると、小型生物の頭頂部よりも高い位置にワイヤーが張ってあったらしく、ワイヤーにディザーカの胸当てが触れた瞬間、横の壁から矢弾が! 知恵比べでゴブリンに負けてしまうという屈辱を味わいます。

その後は全員で1匹ずつ撃破し、戦闘終了。回復を済ませて部屋の探索を始めます。入り口と出口に、それぞれワイヤーが張ってあるらしく(どちらも戦闘中に発覚)、ディザーカの剣で斬ってもらって無力化を図りました。そして部屋の出口から通路付近の<捜索>…ロール後、レオンが「なにもないぞ!」と胸を張って宣言したので、ディザーカを先頭にして歩き出したら、2秒で落とし穴起動。先ほどの戦闘でゴブリンが立っていた場所だったんですが、どうやら一定の荷重がかかることで起動する仕組みだったらしく、ゴブリンクラスの荷重だったらセーフということらしいです。

そしてディザーカの反応セーヴ…出目19以上でOKという、成功率10%しかないロールに見事出目19で成功! 超反応で跳躍し、向こう側に飛び移ります。こうしてディザーカは難を逃れることに成功…しましたが…レオンは…










全員 「………………………。」


レオン 「…や…その………スマン…」


イリード 「あんたねぇ、やる気あるの?」


レオン 「待ってくれ!! 誰にだって間違いはあるだろ!?」


イリード 「あんたが間違ったら死傷者が出るかも知れないのよ!? その辺自覚あるワケ!?」


レオン 「そ、そこまで言うんだったらお前がやれよ!!」


イリード 「な…!? あたしに口答えする気!? ムキー! アンタ何様よー!」」


レオン 「わぁぁぁぁ!! やめろ、押すなバカ!! 落ちる、落ちるだろ!!」


ディザーカ 「はっはっはっはっ、仲いいなぁ、あいつら。」


アリシュア 「……………………。










罠の発見は難しいっていうこと、PL全員が自覚しているんですが…こういうおいしいシチェーションを見ると見逃せないのがこのパーティ。ぎゃあぎゃあ騒ぎつつも先に進みます。

とりあえず落とし穴を乗り越えるには<跳躍>で判定をするしかないということで、先に渡ったディザーカからロープの端を受け取り、身体に巻きつけることに。これで<跳躍>の判定が失敗したとしても、ディザーカが溢れんばかりの筋力で助けてくれるでしょう。

命綱を<縄使い>の判定で結んでいると…ディザーカの後方からモンスターが! なんと相手はホブ・ゴブリン! 小型のゴブリンとは違って中型で、装備もなかなか整ったものをつけている強敵です。パーティが分断された状態で戦闘なんて…そう思っていたPLの不安をよそに、ディザーカ一撃でアッサリ撃破。緊張感もクソもあったもんじゃありません。

その後、縄が結べないローグを折檻しつつも、全員が無事に対岸に渡ります。5フィート幅の通路を越えて、先ほどホブ・ゴブリンが待機していた部屋に入ります。道が北東と南東に伸びているらしく、マップで確認したところ、南東の道は最初の分岐点にあった沼地の部分に繋がるのではないかという結論に到り、消耗具合を計算に入れ、南東に進むことに。

ここでもレオンがやらかします。部屋を出てすぐのところにある落とし穴を見逃してしまい、アリシュアが落下! その展開を狙っていましたとばかりに、3匹のゴブリンが襲撃!

ディザーカが前線で壁になり、隙間からレオンが、先ほどまでの戦闘でゴブリンから奪っておいたジャヴェリンを投げつけます。イリードは数少ない呪文を駆使してパーティをサポートします。5ラウンドほど粘られはしたものの、何とかアリシュア抜きでの撃破に成功。










全員 「………………………。」


レオン 「…や…その………マジでスマン…」


イリード 「…ちょっと…いい加減にしなさいよ?」


レオン 「ひ、ヒィ!!」


イリード 「あんた…探索に秀でてるっていう自己紹介…あれウソだったの?」


レオン 「い、いやっ、そんなことはないぞ!」


イリード 「じゃあなに? あんたゴブリン達の回し者なの?」


レオン 「バカ言うな!! そんなわけないだろう!!」


イリード 「ああそう、じゃあ眠いのね!? 寝ぼけてんのね!? それで実力が出せないのね!?」


レオン 「待ってくれ!! あ、痛い、痛いッス!! 頭掴まないで!!」


イリード 「スッキリした!? 目ェ覚めた!? これでちゃんとお仕事できるかなぁ!?」


レオン 「わぁぁぁぁ!! ちょ、やめ、頭振らないで!!」


ディザーカ 「はっはっはっはっ、ホント仲いいなぁ、あいつら。」


アリシュア 「…………ホントですね…










こうして、初日のアタックは終了。出口の近くまで戻ってきたし、一行の消耗も激しかったので、大事をとって帰還することに。まぁ、大幅に敵の戦力を削ぐことはできたでしょうし、今晩の襲撃はないでしょう。

村に戻り、事情を話し、一応警戒は怠らないでくれということを注意したうえで、一行は眠りにつきました。






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