狼煙 〜悪魔の女と遺跡の巨像〜 前編
トーチ・ポートの東町にある魔法院…市庁舎の側にある煉瓦造りの塔は、いつからか人々にそう呼ばれるようになっていました。ウィザード・ギルドの本拠地であり、併設された図書館や魔法学院はギルドメンバー以外にも広く利用されています。
今回の冒険は、その魔法学院に入学し、日々勉学に励んでいるイリードが教員から呼び出されるところから始まります。
ミカ 「それでは、今日の授業はここまでにします。」
生徒A 「あー…脳が疲れたー…」
生徒B 「なぁ、帰りにめいぷる・りーふでフロストブランド食べて行こうぜ。」
生徒A 「おっ、いいね! 行こう行こう!」
生徒C 「うっあー…オレ今お小遣いないんだー、パスで。」
ミカ 「あ、そうそうイリードさん、あなたにお話があるの。この後職員室まで来てくれる?」
イリード 「え?」
ざわ…ざわ…
イリード 「わ、私が…ですか?」
生徒C 「イリードが呼び出し?」
生徒D 「珍しい…ってか、意外だなぁ。何したんだ?」
生徒A 「珍しいのはともかくとして、意外ってのはお前間違ってるぞ。」
生徒B 「あぁ…この間も正当防衛って名目で上級生3人気絶させたんだろ? 素手で。」
生徒C 「え? 俺は5人って聞いたけど…?」
イリード 「勝手なこと言わないでよ! そんなことするわけないじゃない!」
ミカ 「あなた達、静かにしなさい。イリードさんも、早く支度してついてきて。」
イリード 「ちょ、ちょっとお待ちになってくださいっ! 私は先生に呼び出されるようなことは何もしていませんわ!」
ミカ 「違うわよ、何も悪いことしたから呼び出してるってワケじゃないの。少し手伝ってほしいことがあるだけ。」
イリード 「え? …はぁ、わかりました…」
〜そして〜
イリード 「………それで、お話って何ですか?」
ミカ 「ああ、そうそう。実はね…今から少し前に、この街から20マイルほど離れたところで遺跡が発見されたの。」
イリード 「遺跡…ですか?」
ミカ 「ええ。その遺跡の調査を魔法院が担当することになり、ラルダ先生が数名の生徒を連れて調査に向かったの。それがおよそ1週間前。」
イリード 「で…戻ってこないというワケですね。」
ミカ 「ええ、そうなの。」
イリード 「それでしたら救助隊の編成を要請した方がいいと思いますわ。一介の生徒である私にそのようなことを頼まれましても…」
ミカ 「学園側としては、事を大きくしたくないの。」
イリード 「こ、このような状況になってから仰るようなセリフではありませんわ!」
ミカ 「この学園の生徒達のほとんどが、貴族の家柄の子達なのは知ってるわよね? 今回の件が露見すると、学園の立場はかなり悪くなるわ。」
イリード 「……………。」
ミカ 「自主退学する生徒達も出てくるかもしれない。そうなると、ギルドとしての魔法院は残るかもしれないけど、学園自体の存続が危ぶまれるわ。」
イリード 「だからってそんな…」
ミカ 「お願い、あなたしかいないの! あなたは今や、この学園で一番の魔法使いよ。情けないけど、先生方を含めたうえでも。」
イリード 「ま、まぁ、その点は認めますけれど…」
ミカ 「ははは… (認めるんかい…)」
イリード 「ですが、私がいかに優秀といえど、一人では…」
ミカ 「あら、あなたには心強い仲間がいるでしょ? 今までにいくつもの冒険をこなしたこと、私の耳にも届いているわ。」
イリード 「いぃ!? な、仲間って、彼らのことをおっしゃっているんですか!?」
ミカ 「お願いイリードさん、力を貸して! あなたしかいないの!」
イリード 「…はぁ…わかりました。」
ミカ 「本当!? ありがとう! 助かるわ!」
イリード 「わ、私にしかできないのであればしょうがありませんわ! …彼らに頼るのも不本意ですが、生徒達を確実に救助するために…」
ミカ 「イリードさん。」
イリード 「な、何ですか?」
ミカ 「仲間や友達を信頼することはカッコ悪いことなんかじゃないわ。あなたはもう少し人を頼りにしてもいいと思うわよ。」
イリード 「……か…考えておきますわ。それでは。」
バタン…
イリード 「……………。」
イリード 「わかったようなこと言わないでよ、もう。」
幼い頃から、他の子供達よりも優れた能力を発揮して賛美の言葉を浴びていたイリードは、いつの間にか他者を頼ることや一生懸命努力をすることが「恥ずかしいこと」だと考えるようになっていたのでした。指摘される前から本人も気付いてはいたのですが、いきなり自分を変えることはできず、彼女なりに苦悩していた様子でした。
ともかく、自分から仲間達を冒険に誘うのは初めて。まずは話しやすく、断らなさそうなアリシュアに声をかけることにしたのですが、彼女は所用で外出しているとのこと。
イリード 「もぅ、どうして肝心な時にいないのよ、アリシュア。」
レオン 「なんだイリード、元気ないな。」
イリード 「ひゃっ! レ、レオン、いたの!?」
レオン 「いたのって…前から歩いてきたのに見えてなかったのかよ。ちゃんと前見て歩かないと危ないぞ。」
イリード 「よ、余計なお世話よっ!」
レオン 「…なんか様子おかしいな。具合でも悪いのか?」
イリード 「そ、そんなことないわっ! それより、あんたどうせヒマでしょ? 今日は特別にあたしのお手伝いをさせてあげてもいいわよっ!」
レオン 「や、俺行くとこあるし。今日はパスで。」
イリード 「な、なによ! レオンのくせに予定があるっていうの!? あたしが手伝わせてあげるって言ってるんだから素直に手伝いなさいよ!」
レオン 「………。」
イリード 「ど、どうせ大した用じゃないんでしょ! ならいいじゃない!」
レオン 「あのなぁイリードさんよ。」
イリード 「な、なによ?」
レオン 「人様にものを頼むんだったらよ、もっとそれなりの態度とってもらわないとなぁ?」
イリード 「た、態度って、どうしろって言うのよ?」
レオン 「そうだなぁ、頭下げて、俺様の靴でも舐めてもらおうか。」
イリード 「な、なにバカなこと言ってるのよ! そんなことできるわけないでしょ!?」
レオン 「あっそ、じゃあこの話はここでお終いだなぁ。」
イリード 「っく…」
レオン 「まぁ、お前がどうしてもって言うのなら付き合ってやってもいいけど? それならやることやってもらうけどな。」
イリード 「ハァ…ハァ…ハァ…」
レオン 「ハハハハハハ!! おーいー、イリードさんよー、まだですかー?」
イリード 「ふふ…ふふふふ…死ネッ!!」
ドゴンッ!!
レオン 「あぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
イリード 「フン! 言うに事欠いて「靴を舐めろ」ですって? 冗談じゃないわよ! あんたの靴舐めるぐらいなら舌噛んで死んだ方がマシよ!」
ドガッ! ドガッ! ドガッ!
レオン 「あっ! ぎっ! ぎゃああぁぁぁっ! や、やめっ! うがあっ! かかとがっ!」
イリード 「フナムシ風情が分際を弁えずにあたしと対等に喋ってるんじゃないわよ! そこで反省してなさい!」
レオン 「あっ…うぅ…うぁ…」
〜数十分後〜
イリード 「なによっ! レオンのくせにっ! レオンのくせにっ!」
イリード 「…って、なんであたし、ここに来てるのよ…」
イリードが我に返り、足を止めたのは、ブレイヴ・クルーズ・インの入り口の前でした。時間は昼過ぎで、ピークを終えた店内は少し静かです。
イリード 「ディザーカ…いるかな?」
ディザーカ 「いらっしゃいっ! ん、なんだ、イリードじゃないか。」
イリード 「こ、こんにちは。」
ディザーカ 「珍しいな、一人で来るなんて。何か食うか?」
イリード 「あ、いいの。実は…」
ディザーカ 「ん?」
イリード 「食事じゃなくて…その…ディザーカにお願いがあって…」
ディザーカ 「お願い? 何かあったのか?」
イリード 「うん。あのね…」
イリードは小さな声で事情を説明し始めました。その間、ディザーカは一切手を動かさずに、黙って、頷きながら彼女の話を真剣に聞きました。
イリード 「…ってことがあって。」
ディザーカ 「なるほどな。もう1週間も経つのか、そりゃ急いで探しに行った方がいいな。」
イリード 「それでね…その…あたしと…」
ディザーカ 「オッサン、ちょっと出てくるけどいいか?」
バーク 「おお、昼のピークさえ越えちまえば、あとは俺一人で十分だ。今日はもう戻らなくていいぞ。」
イリード 「え?」
ディザーカ 「ゴメンな。あと、ついでにしばらく休む。」
バーク 「勝手にしろぃ。そのかわり、早く片付けて帰ってこいよな。」
ディザーカ 「わかってるって! じゃあな!」
イリード 「え? え?」
ディザーカ 「おいイリード、急いでるんだろ? 早くアリシュアのとこに行こうぜ。」
イリード 「ディザーカ…ついてきてくれるの?」
ディザーカ 「ああ。」
イリード 「あ、あたしっ! 靴とか舐めたりしないわよっ!?」
ディザーカ 「はぁ? 何の話してるんだ? 仲間が困ってるんだ、助けて当然だろ。」
イリード 「仲間…あたしが?」
ディザーカ 「なんだよ、初めて会った時からそう言ってるだろ。ホラ、早く行こうぜ。」
イリード 「………うんっ!」
イリード 「ディザーカ、あのね?」
ディザーカ 「ん?」
イリード 「その…ありがと…」
ディザーカ 「ははは、いいって。気にするなよ。」
こうして、陥落したイリードとディザーカは、ヒルガ大聖堂へと向かいました。さっきイリードが訪ねてからまだ2時間も経っていませんでしたが、幸運にも(GMの配慮)アリシュアの姿が!
アリシュア 「あら、お揃いで。」
ディザーカ 「冒険だ! 一緒に出かけようぜ!」
アリシュア 「はい?」
イリード 「もう、ディザーカったら、いっつもそうなんだから。」
ディザーカ 「ん? なんかヘンだったか?」
イリード 「端折りすぎなのよ、もう。あははは!」
ディザーカ 「ははは! そっか、悪い悪い!」
アリシュア 「ふ、二人とも、何か…あったんですか?」
イリード 「ああ、そう。そうなのよ。実は、発見された遺跡の調査に向かった魔法院の教師と生徒達が、もう1週間も戻ってこないの。」
アリシュア 「は、はぁ、それは一大事ですね。 (「二人に何かあったのか」を聞いたつもりだったんですけど…)」
イリード 「調査隊の救助を依頼されたの。アリシュアも協力してくれないかしら?」
アリシュア 「もちろんです。私でよろしければ、喜んで力をお貸しいたしましょう。」
イリード 「ありがとう、アリシュア。」
アリシュア 「あの…ディザーカさん。イリードさんの様子がいつもと違うような気がするんですが…」
ディザーカ 「ん? いつもと変わらないと思うけど?」
アリシュア 「うーん、そうですか?」
レオン 「ふっふっふっ、誰か忘れてはいないかい?」
アリシュア 「あ、レオンさん。」
ディザーカ 「おうレオン、一緒に遺跡に行こうぜ!」
レオン 「遺跡か…となれば、腕のいいローグが必要だな。」
イリード 「確かにそうね。でもアンタは役に立たないからいらないわ。」
レオン 「おっ、おいっ! なんだよそれ!」
イリード 「あたしはあんたの靴なんか舐めたくないもん。もっと強くて頼りになるローグを雇うわ。あんたは帰って昼寝でもしてれば?」
レオン 「なんだよ、あのことまだ根にもってるのかよ! あんなの冗談だろ!?」
イリード 「いいえ、よくよく考えれば正しいことだったわ。人にものを頼む時は、"それ相応の"態度を示さないとね。」
レオン 「どうか私も旅のお供に加えてください、イリード様っ! 仲間外れはイヤなんです!」
イリード 「おーっほっほっほっほっ!! 図が高くってよ、ド平民!! どうしても連れて行ってほしいのならあたしの靴をお舐めなさい!!」
レオン 「喜んで!!」
イリード 「うわっ! キモっ! ホントに舐めた! やめてよ汚いわねっ!」
アリシュア 「………………。」
ディザーカ 「な、いつものイリードだろ?」
アリシュア 「…そうですね…私の気のせいでした…」
前フリ長ッ!! こうして、一向はモチベーションを1つに、ラルダ先生と生徒達が探索に向かったヒュールス遺跡へと出発することにしました。と、その前にレオンが<情報収集>、イリードが<知識:地域>で情報収集。
北東に20マイルほど進んだところで発見された遺跡のようで、名前には発見者の"ヒュールス"という名前がそのまま付けられたようです。
どうやら、この世界の文明(少なくとも現在の)とは異なる構造の建造物らしく、魔法とは違う力が働いているかもしれないという情報が。しかも、表層部には近隣に生息していたモンスターが棲みついてしまっているとのこと。
調査隊は魔法学院教師のラルダが自ら志願し、数名の生徒を選出して編成されたようで、それ以外にも護衛として冒険者が2名雇われたとか。
このラルダという教師。数週間前からウィザード風の風貌をした女性と密会しているところを目撃されていたようです。しかもその相手の女性は、今回の護衛のうちの1人…全貌こそ見えてこないものの、イヤなきな臭さが漂ってきます。
これ以上の情報は手に入りませんでした。日も暮れてきたので、この日はここで一旦解散し、翌日の早朝に出発することにしました。