狼煙 〜悪魔の女と遺跡の巨像〜 後編




翌日、アリシュアの祈りが済んでからトーチ・ポートを出発。朝靄が立ち込める平原を北東に向かって進むこと20マイル。途中のエンカウントは一切なく、消耗せずにヒュールス遺跡へと到着しました。





遺跡に着くと…なるほど、異なる世界の建造物という表現は言いえて妙でした。というのも、そこに建っていたのは機械剥き出しのビルのような建物。あきらかにこの世界に相応しい建造物ではありません。見たことも聞いたことも、想像したことすらもない物質が目の前にあるのです。PC達も警戒を通り越して興味が出てきます。が、人の命がかかっていることとモンスターが棲みついていることを思い出し、すぐに気を引き締めて調査に取り掛かりました。

レオンが<捜索>、<視認>、<聞き耳>を済ませ、一向は慎重に中へと進んでいきます。内部の天井には、青白く強い光を放つ細い棒(ぶっちゃけ蛍光灯)が何本も取り付けられており、十分すぎるほどの明るさを提供してくれていました。しばらく進むと、無数の装置を集めて組み立てられたゴーレムのような物体が何体も吊るされた奇妙な廊下に出ました。動き出さないか気をつけながら、慎重に奥へと進んでいくと、レオンが隠れ潜んでいたディスプレイサー・ビースト×2に奇襲されました。

この6本脚のやせた豹のようなモンスターは肩から2本の触手が生えており、超常能力でディスプレイスメントが使えます。つまり、攻撃を仕掛けても50%の確立でミスしてしまうのです。今回の遭遇は2体のディスプレイサー・ビーストにレオンがボコられてからのスタート。

イニシアチブを制したレオンは後衛まで下がり、前衛にはディザーカが進軍していきます。そしてイリードは魔法で援護。敵の攻撃回数が多いことと、攻撃が当たりにくいことで戦闘は長期化しますが、早々に戦線に復帰したレオンディザーカが1体ずつ確実に仕留めていきました。

少し進むと再びディスプレイサー・ビースト×2との戦闘に。またもやレオンが奇襲をかっ喰らってくれました。ここまでされると、DMも他のPLも逆に清々しいです。





ディスプレイサー・ビースト達を倒し、奥へと進んでいく一行が目にしたものは、機能を停止したゴーレムの組み立て所のような部屋でした。このような施設を見るのは初めて。未知の技術に対する恐怖のような感情が胸をよぎります。





さらに奥へと進んでいくと、少し大きな部屋へと辿り着きました。しかし…その部屋の床には無惨にも、強い力によって食い千切られでもしたかのように胴体から真っ二つになった生徒の死体が…その生徒は、紛れもなく調査隊の一員としてこの遺跡へとやってきた生徒でした。かわいそうに…遺跡に巣食うモンスターから逃げそびれ、殺されてしまったのでしょう。

このようなことをするモンスターは、イリードが<知識:地域>と<知識:モンスター>をフル活用して考えても、アンケグやアンバー・ハルクぐらい。なのに殺した生徒を食べずに放置というのはどういうことでしょうか。もしかして、残りのメンバーを追って奥へと進んでいったのでしょうか。しかし、レオンが死体を<捜索>すると、死後数日が経過していることが判明します。段々とワケがわからなくなってきました。考えても埒があかないので、生徒の死体を部屋の隅に安置し、一向は奥へと進むことに。

幸か不幸か、疑問はすぐに晴れることになります。しばらく進んで到着した部屋には、焼け焦げたアンバー・ハルクと残りの生徒達、そして護衛として雇われたはずのウィザードの死体が転がっていました。死体はみな、強力な電撃によって胸を貫かれ、身を焦がしています。イリードが<呪文学>の判定をして導き出した結論は、「死因はかなり強力なチェイン・ライトニング呪文」であるということ。射抜いた対象から副次の電撃を放ち、複数の敵をまとめて攻撃する、高い威力を持った上級の力術です。










アリシュア 「これは…ラルダという教師の方の仕業でしょうか?」


イリード 「冗談、あたしも使えないような高等な呪文よ? ラルダ先生なんかが発動できるワケないわ。


アリシュア 「あるいは、スクロールから発動すれば。」


イリード 「それにしたって、ラルダ先生の安月給で手が届くような金額のスクロールじゃないわ。


レオン 「お前、自分とこの教師にサラっとヒドいこと言うな…」


ディザーカ 「なぁ、この人達が雇った護衛って一人だけだったか?」


アリシュア 「ええ、私も同じことを考えていました。」


レオン 「死体が見つかっていないのも、ラルダって教師と、密会してたっていう女のウィザードだけだな。」


イリード 「そのウィザードがこんなマネを…だとしたら、かなりヤバいわね。正面から突っ込んだら、間違いなくあたし達もこうなるわよ。」


全員 「………………。」










レオン「か、帰ろっか?」と言いかけたところで、他の3人が先に進むことを決意。結局具体的な対策も立てぬまま、奥へと進むことに。

隣の部屋には、無数のガラクタが積み上げられたゴミ収集所のような部屋がありました。ここでレオンの<捜索>ロールがブン回り、一風変わった鍵のようなものを発見しました。様々な方法で調べてみた結果、入り口付近にあったゴーレム、またはそれと同種の装置を動かすための鍵なのではないかということがわかりました。また、鍵には『K−3』というよくわからない暗号も記されていました。

1階はここまで。すぐ隣の部屋に階下へと下りる階段があったので、少し休憩をしてそのまま地下へ。





地下へ降り、<捜索>をしながら進んで行くと、無数の計器(もちろんPC達にはなんなのかサッパリわからない)が備え付けられた部屋に辿り着きました。そこにはラルダ先生の後姿が!










イリード 「ラルダ先生ッ!」


ラルダ 「え!? おお、イリード君!! ひょっとして、助けにきてくれたのか!!」


イリード 「ええ。ですがその前に答えていただきますわ! 上の生徒達の死体はいったい?」


ラルダ 「ま、待ってくれ! 私は彼らを見捨てるつもりはなかったんだ! だがあの女が、モンスターごと雷で焼き払ってしまったんだ!」


アリシュア 「あの女とは、護衛としてあなたが雇った女性のウィザードですね?」


ラルダ 「ああ。だが、正確には彼女が私にこの話を持ち掛けてきたんだ。」


イリード 「どういうことですか?」


ラルダ 「魔法院がこの遺跡の調査を担当することになった日…あの女は私の前に現れ、調査隊に志願し、護衛に自分を雇うようにと告げてきた。」


レオン 「で、土壇場で裏切られた…ってわけか。」


ラルダ 「あの女は悪魔だ。私は協力をやめようとした…しかし私は遺跡の装置の研究と修理を強制され、逆らうことが出来なかった…」


ディザーカ 「なるほど、そういうことだったのか。」


ラルダ 「キミたちに頼みたい! あの女を止めてくれ! アイツはこの遺跡にある古代兵器でトーチ・ポートを脅す気だ!」





ゴゴゴゴゴゴ!!





ディザーカ 「うぉっ! な、何の音だ!?」


ラルダ 「まさか…アレが動き出したというのか!?」





ドガガガガガガガガガガガ!!






レオン 「おっ! おいっ! ヤバいんじゃないのかっ!?」


イリード 「近づいてくるっ! 早くここから離れましょうっ!」










一行はラルダを連れて遺跡からの脱出を試みます。しかし、部屋を出て廊下を走り、上り階段に辿り着こうかというその時、廊下を掘り砕きながら進む古代兵器に追いつかれてしまいました! 巨大な複数の腕を震わせ、咆哮に似た駆動音と排気音をあげる古代兵器の横には、1人の女性が立っていました。










リベルカ 「ラルダ先生…どこに行くつもり?」


ラルダ 「リ、リベルカ…」


リベルカ 「あら、もしかして助けが来たの?」


ディザーカ 「こいつが…」


リベルカ 「残念だけどもう手遅れよ。生徒達は全員殺したし、その男もあなた達もこれから一緒に死ぬんだから。」


イリード 「勝手なこと言わないでっ! そんなガラクタ動かしたぐらいでいい気になってるんじゃないわよっ!」


リベルカ 「ガラクタね…フフッ、確かに鍵がなくて動かせなかった他の兵器はガラクタかもしれないけど…コレはそんなかわいいもんじゃないわよ?」


ラルダ 「その女の言うとおりだ、早く逃げるんだ!」


リベルカ 「フフフッ、今さらどこに逃げるの? いい機会だわ、この兵器の性能をあなた達で試させてもらうわ。なるべく長持ちしてね?」





そう言うと、リベルカと呼ばれたウィザードは、グレーター・インヴィジビリティを発動させ、姿を消しました。そして、古代兵器が放つ轟音をかき消すかのような冷徹な声で囁きました。





リベルカ 「命令よ、目の前の敵を排除しなさい。」










敵の名はガルガンチュア。(イラストはココを参照してください)巨大なアームを複数持った、超大型の古代兵器です。

イニシアチブを制した一行が果敢に攻撃を仕掛けますが、金属製の装甲はディザーカの攻撃を容赦なく軽減していきます。当然、ゴーレムの副種別を持っているのでレオンの急所攻撃も効きません。イリードは手持ちの力術を強力なものから順番に連発していきますが、こちらも呪文抵抗によって無効化されてしまいます。ようやく抜けたと思ったライトニング・ボルトの呪文も、敵のhpを回復させてしまうばかりでなく、逆にその電撃を放電してくるというミラクルプレイのトリガーに!! そしてたいしたダメージも与えられぬまま、敵の強大な破壊力と手数の前にアリシュアの回復が追いつかなくなってきます。

しかし、誰もが敗北を覚悟したその時、1人の男が果敢にもガルガンチュアに向かって飛び込んで行きました!










アリシュア 「れ、レオンさんっ!?」


イリード 「ウソでしょ…何やってんのよっ!! あんた死ぬ気!?」


レオン 「くそッ…ディザーカッ! こいつ引きつけろッ! 10秒でいいッ!」


ディザーカ 「おうッ!! さぁ、こっちだバケモノ!! かかってこい!! グゥゥゥゥゥレイトォォォォォッ!!」


レオン 「…ちくしょうっ、ここにもない! ってことは…上かッ!!」










<軽業>と<隠れ身>を駆使して、ガルガンチュアの懐に潜り込んで何かを探すレオン。そう、彼の脳裏には1つの確信があったのです。リベルカが言っていた「古代兵器を動かすための鍵」…上の階で自分が見つけたものが…今自分が握り締めているものがまさにそれだという確信が。そして、古代兵器を動かすことが出来るのなら、同様に古代兵器を止めることもできるはずだと考えたのです。

次のラウンドで再び同様の判定を行い、今度は脚部を伝って背中をよじ登り、ガルガンチュアの後頭部にしがみつきます。そして…










レオン 「ハァッ…ハァッ…どこだ、どこにあるッ!?」


ディザーカ 「レオォォン! まだなのか! もうこっちも限界だっ!」


レオン 「………!? あった、ここかっ!! ちくしょうっ、止まりやがれェェェェェェッ!!」




レオンが鍵穴に鍵を差し込み、思い切り捻ると、一行を苦しめたガルガンチュアは「ウウゥゥゥゥン…」という音を立てて、物言わぬ鉄塊へと姿を変えました。





レオン 「ハァッ…ハァッ…ハァッ………へへっ、どうだ、ざまぁみやがれ!」


ディザーカ 「レオォォン! やったな、レオン! グレイトだぜッ!」


レオン 「ははっ、当たり前だ! にしても、助かったぜ。サンキューな、ディザーカ!」


アリシュア 「レオンさん、ご無事ですか!?」


イリード 「ホント、すごいわレオン! あたしてっきり、ヤケになってブッ飛ばされに行ったのかと思っちゃった!


レオン 「そんなワケないだろっ! アホかっ!」


リベルカ 「なんで……どういうこと?」





驚愕の表情を浮かべたリベルカが、術を解いて一行の前に姿を現しました。が、消える前の彼女とは大きく異なる点が…そう、彼女の頭部から角が生えていたのです。





アリシュア 「あ…悪魔!?」


イリード 「なるほど、ラルダ先生の発言は言葉通り…そもそも人間じゃなかったってワケね。」


リベルカ 「なんであなた達がそれを持ってるの?」


レオン 「あ? これか? 上のゴミ捨て場に落ちてたぜ。大事なもんならもっとよく探しとくんだったな!」


リベルカ 「……いいわ…それはあなた達に預けておく。でもいずれあたしが奪い返す…あなた達を殺してからね。」










ぞっとするような声でそう告げると、リベルカは呪文の詠唱を始めます。身構える一行を他所に、リベルカはその手を天井に向けてディスインテグレイト呪文を投射。天井をブチ抜くと、翼を広げて空へと吸い込まれるかのように消えて行きました。





こうして、今回の事件は一旦は収束の方向へと進みました。しかし、生徒達を殺されてしまったということで、魔法院は…特にラルダは大きな責任問題に直面することとなります。イリードがリベルカという悪魔がトーチ・ポートの壊滅を企てているという情報を明るみに出したことによって、彼女達の功績が称えられ、魔法学院の存続は決定しましたが…それでも何人かの生徒達が保護者の提案によって自主退学をしていったようです。

去り際のリベルカの目と言葉…彼女は近いうちに、再びこの町に何かしらの災厄をもたらすことでしょう。しかし、その時も必ず阻止してみせると、PC達は強く誓うのでした。


















〜そして翌日〜





生徒A 「すっげーよな、イリード! たった4人でラルダ先生達を助けに行って、悪魔や古代兵器と戦ったんだろ!」


生徒B 「ああ、ものすごい死闘だったらしいぜ! やっぱ違うよな、天才はよ。」


生徒C 「ホントホント。俺らなんかまだ初級の呪文も満足に発動できないのになー。イリードもう4LVの呪文使えるらしいぜ。」


生徒A 「マジかよ!! 学院長と同じぐらいの実力ってこと!?」


イリード 「………。 (ふふふ、みんながあたしのウワサしてるわ。なんだかいい気分♪)」


生徒D 「でもよー、俺が聞いた話じゃ、活躍したのは4人のうちのレオンってやつだけで、イリードは大したことしてなかったらしいぞ?」


生徒A 「ハァッ!? マジで!?」


生徒B 「なんだそりゃ?」


イリード 「ちょ、ちょっとっ! それどういうことっ!?」


生徒達 「ヒィッ!!」


イリード 「詳しく教えなさいっ!!」


生徒D 「へっ、平和橋で今朝っ! ハーフリングの人が喋ってたんだよぅ! 俺はすべてを見てきたって!」


イリード 「あ…あ…あンのダメ人間〜!!」


ミカ 「きゃっ!! ちょ、ちょっとイリードさん!? もう始業よ!!」


イリード 「それどころじゃないんですっ! 後でプリントだけくださいっ!」


ミカ 「もうっ! なんなのよーっ!」





そして平和橋





レオン 「そこで俺様は賭けに出た! 仲間の誰もが無謀だと叫ぶ中、人生に一度の大博打にな!」


町民A 「はぁ〜…ものすごい勇気だな。」


町民B 「まったくだ。やっぱ町を救った英雄は、心の持ち方からして違うな〜。」


レオン 「そう…俺の勇気ある行動を見て一際うろたえたのが赤髪のウィザードだ。あの女は俺のす……」


イリード 「黙れえぇぇぇッ!! こンの豆男ぉぉぉぉっ!!」





バキッ!!






レオン 「ウブェアッ!!」





バシャーン!





町民C 「ああっ! 勇者様が落ちたぞ!」


イリード 「早く浮かんできなさいよ、じれったいわねっ!」





ボシャンッ! ボシャンッ!





レオン 「ぶはっ! て、テメェっ! あぶっ! 石投げんな! なにしやがっ……ヒィィィッ! い、イリードさんじゃないですか!」


イリード 「さん〜?」


レオン 「は、ははは…イリード様、本日もご機嫌うるわしゅう…」


イリード 「フン! 確かにね、さっきまでは最ッ低の気分だったけど、今はあんたに制裁を加えることができると思うと胸がドキドキしてくるわっ!」


レオン 「ぼ、暴力はいけないと思うんだな!」


イリード 「吐き違えないでくれるかしら? これは調教よッ! 躾のなってない野良猫にもう一度主従関係をきっちり叩き込むためのね!」


レオン 「ま、待てっ! 話し合おう! 俺達は言葉で通じ合えるじゃないか!」


イリード 「妄言しか吐き出さないあんたと会話なんて時間の無駄なのよ! さぁっ、覚悟なさいっ!」


レオン 「イヤァァァァァァァァァッ!! あいつよりお前の方がよっぽど悪魔だァァァァァァッ!!





この後、街中で呪文を発動させたイリードは自警団にとっ捕まりました。






前編   戻る