第11話  疫病王の箱庭  前編




レイム 「ホラ、二人とも! モタモタするんじゃないよ!」


ルイン 「あ、あぁ…」


ミュー 「ご…ごめんなさい…」


レイム 「ったく…誰だか知らないけど、絶対に許さないからね。」


ミュー 「…ルイン、今日のレイムこわい…


ルイン 「そ、そうだな…確かに虫の居所が悪いような…


ミュー 「…レイム…虫飼ってるの?


ルイン 「あ、いや、そういう意味じゃなくて…


レイム 「ちょっと! お喋りしていないで早くついてきな!」


二人 「はっ、はいっ!」










レイムがこんなにも苛立っているのには当然理由がありました。

一行は長旅の末、ついに先日ジャーナーへと辿り着きました。しかし辿り着いたジャーナーでは、不吉な噂が広まっていたのです。それは、町の西に広がっている銀森という森の奥に住むエルフ達が謎の病気に感染してしまったというもの。この森に住むシルヴァン・エルフ達は特殊な木々を育成しており、それらの木々は病気にかかることがなく、醸造酒を作り出すのに適した非常に味の良い樹液が採れることでも有名です。そんな決して病気にかからない銀森の木々までも病に蝕まれているのだとか。

しかしこの町に住むヒルソンという名のウィザードが、その治療薬の作成に成功したらしく、後は森に住むエルフ達に届けるだけというところまできているのだとか。しかし、病気が人間にも感染するかもしれない…という噂が流れ、森の奥に住むエルフ達の集落に薬を届けようと名乗り出る者は誰もいないというのが、今のこの町の現状のようです。

自然を愛するレイムの提案もあり、一行はこの依頼を引き受け、治療薬を持って銀森へと向かったのですが…森の近くまでやってきた一行は己の目を疑いたくなるような信じられない光景を目の当たりにします。森の木々のほとんどが黒く変色し、ボロボロに枯れ果てていたのでした。そしてその時からレイムの機嫌が猛烈に悪くなり、冒頭のやり取りが発生したのでした。










ミュー 「ねぇレイム…ちょっと休もう?」


レイム 「何言ってるんだい! この森の苦しみはそんなもんじゃないんだ! 早く薬を届けなきゃ…」


ルイン 「待ってくれレイム殿、この森に来てから様子が変だ。一体どうしたんだ?」


レイム 「変? アタイのどこが変だっていうのさ!」


ルイン 「少なくとも今までは、ミューに対してそんな風にきつく当たったりはしなかったはずだ。」


レイム 「あ……」


ミュー 「今日のレイム、こわい…」


ルイン 「一刻を争う事態だというのはわかるが、それにしても焦り過ぎてはいないか?」


レイム 「……同じなんだよ、アタイの住んでた森と…」


ルイン 「え?」


レイム 「アタイの住んでた森も、アンデッド達に襲われる前にこれとまったく同じ病気が蔓延したんだ。」


二人 「……………。」


レイム 「すまないね、ミュー。アタイが住んでた森はなくなっちゃったから、せめてこの森はなんとしても守りたかったんだ。」


ミュー 「ううん、いい………レイム、がんばろうね。」


レイム 「ミュー…ありがとう。」










パーティ内でのわだかまりも解消されました。さて、事件の概要がほとんど同じということは、恐らく黒幕も同じなのではと考え、小休止を終えた一行はからすぐに森の奥を目指して移動を再開しました。

ほどなくして森の奥にあるシルヴァン・エルフ達の集落に辿り着いた一行。しかし集落では、抵抗力の高い若い男性を除いたほとんどのエルフ達が病に感染し、床に伏せっていました。










レイム 「まいったね、薬が全然足りないじゃないか…!」


ルイン 「何か良い手はないのだろうか。これではこの集落の人達は…」


族長 「旅のお方よ、わしの話を聞いてはくださらんか?」


ルイン 「あなたは?」


族長 「この集落の長を務めております。」


レイム 「お、起きてきて大丈夫なのかい!?」


族長 「ゴホッゴホッ! …なぁに、心配には及びません。それよりも…」


ミュー 「なにか知ってるの…?」


族長 「この病は、森の木々が黒くなるにつれて広範囲へと蔓延してきました。そして最初にこの現象が目撃されたのはこの森の中心のあたり…」


ルイン 「つまりそこに、この病の原因があるということなのですね?」


族長 「恐らくは…我々もそう思い、若い者数人でチームを組んで調査に向かわせたのですが、数日経った今でも戻ってきません。」


レイム 「どうやら、確定みたいだね。」


ルイン 「ああ。元を断てば解決するかはわからないが、今はそれしか方法もないか。」


族長 「お願いいたします。どうかこの薬を持って、森の中心部を調査し、調査隊の連中を救ってきてはくださいませんか?」


レイム 「も、もちろんそのつもりだけど…アタイ達が薬を持って行ってもいいのかい?」


族長 「どのみち数が足りなくては、助かった者達も負い目を感じてしまいます。それに…」


全員 「……………。」


族長 「今この森を救えるのは、調査に出かけた若い者達と皆さんをおいて他におりません。どうか我々の希望を皆さんに託させてください。」


ルイン 「わかった。私達に任せてくれ。」


レイム 「森もみんなも、必ず救ってみせるよ。」


ミュー 「だから…もうちょっとがんばって。」


族長 「なんと頼もしい…ありがとう、ありがとうございます。」










こうして一行は、エルフ達の集落から銀森の中心部を目指すことになりました。族長の言う通り、森の中心に近づけば近づくほど、黒く変色した木々が増えてきました。

そしていよいよ森の中心部に辿り着こうかというその時、一行の前に見たこともない不気味な生き物が姿を現しました。





現れたモンスターは「疫病吐き」という名のオリジナル・モンスター。イラストはヒヨケムシ同様ココを参照ください。このモンスターが3体、背中に空いた穴から黒煙を噴き上げながら一行に近づいてきます。<知識:自然>なんかで判定するまでもなく、こいつらが元からこの森に生息していたはずがないということ、こいつらが森をこんな姿に変えた張本人であることが容易に気付けました。

戦闘が始まると疫病吐き達は、背中の穴から黒煙を矢のように撃ち出して攻撃してきました。病気の副次効果も持っていたのですが、ルインは難なくセーヴに成功すると、ミューと2人で3体のうちの1体を挟撃してねじ伏せます。

しかしここでアクシデント! 倒した疫病吐きが目の前で爆発したのです! かなりの痛手を負ってしまいましたが、近くにいた他の疫病吐き達も爆発に巻き込まれて苦しんでいました。なんか滑稽ですこいつら。爆発によるダメージを最低限に抑えて勝利した一行は、治療を済ませて奥へ進みます。





森の中心部には、崖にできた大きな洞穴がありました。エルフの若い戦士達はこの奥へと進んで行ったのでしょうか? 一行も光源を準備して奥へと進むことに。

しばらく進むと左右と正面に伸びた三叉路に出ました。正面はまぁ、奥に進むための道と考えて間違いないだろうということで、まずは手前側からしっかりと踏みならしていくことに。

右の通路の奥の部屋には3体、左の方には2体の疫病吐きがいましたが、もうこいつの特殊能力は割れているので、さほど苦戦もしませんでした。各個撃破にあたった際、疫病吐きの爆発に巻き込まれて他の疫病吐きが死亡して怨爆連鎖を起こしてたのが笑えました。





左右の部屋の捜索を終えて奥の道を進んで行くと、開けた空間に出ました。そして奥の方の通路からは、大型の獣のようなモンスターが地響きを立てながら近づいてきました。

一行を見るやいないや、咆哮をあげて襲いかかってきたこのモンスターはウンパスというオリジナルモンスター。開戦と同時にいきなり60フィート円錐の瘴気のブレスを吐き出してきました! 反応セーヴの後に頑健セーヴを強要され、ミューとアルが吐き気状態に陥ってしまいました。しかしどうやらブレスは連発できないようなので、その隙に間合いを詰め、近接戦を仕掛けます。

敵の攻撃はダメージ・ダイスも固定値もあまり大きくなかったため、懐に飛び込んでからは楽勝でした。hpもそれほど高くはなく、ルインミューで挟撃陣形を敷いて攻撃し始めたら2ラウンド後には絶命していました。ブレスは脅威的でしたが、セーヴに失敗したからといって病気になるわけでもなく、そもそもダメージが疫病吐きの「断末魔の爆発」と同じ。見かけの割には疫病吐きの方が強敵なのではという意見もありました。





少し進むと再び三叉路に出くわしたので、前の時と同じように左右の通路から進むことにしました。

左の通路を進むと、縦長の大きな部屋に出ました。そこには、大きな水槽(むしろプールぐらいの大きさ)のようなものが多数設置されており、怪しい色をした液体で満たされていました。そしてその中には疫病吐きやウンパスの姿が…やはり道中で出会ったモンスター達は、何者かによって造られた生き物だったのです。

この部屋は一行にしてみれば未知の技術で溢れていましたが、とりあえず「危険なものである。」ということだけは認識できたので、今のうちに破壊しておこうという意見が出ました。しかし部屋の中に1歩踏みこむと、近くに立っていたシールド・ガーディアンが動き出しました。シールド・ガーディアンは部屋の入口に立ちはだかり、一行の行く手を阻みます。

物は試しとばかりに戦ってみますが、ダメージ減少能力を有しているらしく、効果的なダメージが与えられません。アルはもちろんのことですが、「人造の種別特徴」の前にはミューの「急所攻撃」も無効化されてしまい、ハッキリ言って勝負になりません。部屋の外までは追ってこないようなので、この部屋は無視して右の通路を進むことにしました。






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