第11話  疫病王の箱庭  後編




シールド・ガーディアンを放置して右の通路を進むことにした一行。扉を開けるとそこは牢獄になっており、中にはエルフの捜索隊員達が閉じ込められていました。










エルフA 「だっ、誰だ!?」


レイム 「助けにきたよ! みんな無事かい!?」


エルフB 「助け…だって!? ははは!! やった!! 助かったー!!」


ルイン 「待っていろ、今牢を破壊する。少し下がっていてくれ。」






エルフA 「ありがとう、あんた達、ジャーナーの町から来たのか?」


ルイン 「ああ、依頼を受けて治療薬を届けに来たのだが、数が足りなくてな。」


レイム 「あんた達の族長に頼まれて、原因の調査をしているところだったのさ。」


エルフC 「そうか、じゃあまだ村のみんなはまだ…」


エルフD 「ああ…俺達もあんた達と同じように調査に来たんだが…」


エルフA 「この奥にいた怪しいヤツに敗れて、捕まっちまったんだ。」


レイム 「怪しいヤツ?」


エルフB 「ああ、妙な仮面を被ったやつだ。声は男のものだったが、ありゃ間違いなく人間じゃねぇ。」


ルイン 「ま、まさか! 仮面をこう、上下逆さまに着けたオカマ口調の…」


エルフC 「は? あんた何言ってんの?」


ルイン 「あ、いや、その…ゴホン、なんでもない…」


レイム 「ははは… (確かにアイツも、妙な仮面で男の声で、考えようによっては人間じゃない…か。)」


エルフB 「全員で一斉にかかっても歯が立たなかった…あいつは触れたやつから体力を吸収して、傷を即座に回復する力を持っていた。」


エルフD 「俺達は1人ずつ順番に倒されていき、最後には敗北。全員ここに閉じ込められてしまったんだ。」


エルフA 「それからは、たまに1人ずつ別の部屋に連れて行かれて妙な検査を受けさせられたが…むしろそれ以外は何もされてない。」


レイム 「そう、ともかく無事でよかったよ。」


ルイン 「後は我々に任せて、あなた達は村に戻ってくれ。」


エルフA 「だが…あんた達を置いて逃げ帰るわけにはいかない!」


ルイン 「その気持ちだけで十分だ。」


レイム 「そうそう。検査の時に何かされてるかもしれないんだし、村に戻って休んでなよ。」


エルフB 「……すまねぇ。どうか必ず、この森を救ってくれよな!」


ミュー 「大丈夫、まかせて。」










エルフ達と別れた一行は、再び調査を開始します。道中、再び別のウンパスと出会いますが、今度はイニシアチブを制して即座に分散、ブレスの被害を最小限に抑えて戦い、難なく撃破します。

さらに奥へと進むと、そこで再び三叉路に直面。同様に左右の通路から調査をしていくことに。まず左に進むと、シールド・ガーディアンによって守られていたところと同じような部屋に出ました。謎の装置が無数に設置され、疫病吐きやウンパスが円柱状のケースの中で眠っていました。仕組みこそわかりませんが、とりあえず「よくない」と思ったので、無数に伸びたチューブを切断したり操作盤のようなものを粉砕したりして大暴れしてやりました。幸いなことに、ケース内のモンスターが外に飛び出してくることもなかったので、破壊するだけ破壊して反対側へ。

右の部屋は魔法陣が敷かれた部屋になっており、レイムの<呪文学>判定でこれが遠くにいる者と会話をするための装置だということが分かりました。しかし動かし方までは分からないのでとりあえず破壊。それ以外には何もない部屋だったので、奥へと進むことに。

奥の道を少し進むと、大きくて頑丈そうな作りの扉の前にやってきました。ここが洞穴の最後の部屋で、部屋の中央には診察台のようなものが、そして壁に沿って怪しげな装置が大量に設置されていました。そして診察台の近くには、この森に奇病を蔓延させた黒幕の姿が…










男 「…ん? 貴様ら、エルフではないな。ジャーナーの町の人間か?」


ルイン 「そんなところだ。…お前がこの森を蝕んでいる張本人だな?」


レイオス 「いかにも…我が名はレイオス。主より病を操る力を授かった、人を越えし存在だ。」


レイム 「人を越えただって? バカバカしい! こんなことして、いったい何が目的なんだい!?」


レイオス 「この森に解き放った病…我が主は、この病の更なる改良を所望されている。私にしかできない大役だ。」


ルイン 「この森とエルフ達は実験台というわけか? …ふざけるな! 貴様のくだらん茶番も今日で最後だと思え!」


レイオス 「主より賜った命令を、貴様ら如きに邪魔されるわけにはいかん。」


レイム 「そんな命令を下すやつも、それに従うやつも、絶対に許しはしないよ! 覚悟しなっ!」


レイオス 「ほう…どうやらこの病に耐えるだけの力はあるようだな。ならば貴様らを新たな実験体にして、研究に利用してやる! こい!」










敵の名は"疫病王"レイオス。イラストはココを参照してください。

戦闘開始と同時にルインミューとアルが駆け出し、診察台の左右から回り込んで挟撃を仕掛けます。しかしここでレイオスの特殊能力の1つが明らかになりました。なんと、レイオスの通常攻撃手段が、疑似呪文能力(回数無制限)のヴァンピリック・タッチだったのです!

近接接触ってだけでも異常なまでの当たりやすさなのに、hpを吸収されるとなるとたまったもんじゃありません。数ラウンドにわたって熾烈な接近戦が繰り広げられますが、確実に攻撃を命中させてくる分敵の方が優勢で、徐々にレイムの回復も間に合わなくなってきました。

劣勢と判断した一行は、一旦距離を取り、体力の回復を図ります。しかしレイオスは、「瘴気の波動」という円錐型の効果範囲を持つ黒煙を発生させて一行を攻撃します。セーヴに失敗したアルは吐き気状態となってしまい、部屋の隅でリタイア。その間に回復を終えたルインミューが、再び左右から攻め込みます。これに対してレイオスは、部屋の隅に移動して挟撃を避け、ミューからのダメージを大幅に減少させることに成功します。

しかしここからルインの攻撃ロールとダメージ・ロールがブン回りはじめ、徐々にレイオスを追い詰めていきます。敗色濃厚となったレイオスは、洞穴の中に待機させていたシールド・ガーディアン(一行が倒すのを諦めたやつ)を呼び寄せます。










レイオス 「ククク…道中でシールド・ガーディアンを破壊しておかなかったのが運の尽きだったな。」


ルイン 「“しーるど・がーでぃあん”? …あの巨大な人型のモンスターか!」


レイオス 「そうだ。あいつは私を守り、私へのダメージを肩代わりする。貴様らは私に致命傷を与えれぬまま、体力を吸われて敗北するのだ。」


レイム 「まずい! 早くそいつを倒して!」





焦る一行。レイオスの言う通り、ダメージを半分も肩代りされては、こちらが与えるダメージを向こうの回復量が上回ってしまい、勝ち目が0になってしまいます。なんとかシールド・ガーディアン到着までに勝負を決めようと猛攻を仕掛けますが、ことごとく外してしまいます。

通路の幅は10フィート。後方からシールド・ガーディアンが現れたら、逃げ道すらありません。もう敗北しか残されていないのか…しかしその時、奇跡が起こります!





エルフA 「ああは言われたけど、さすがに「はいそうですか」とは言えないよな。」


エルフB 「ああ、村のみんなもあいつらも一生懸命戦ってるのに、俺達だけノコノコ逃げ帰れるワケねぇよ。」


エルフC 「それにあいつら女の子だったしな。男の俺達がもう一頑張りしなきゃ、一族の恥さらしだ。」


エルフA 「ああ、幸い俺達の装備も見つかった。急いで加勢しに行こう。」


エルフD 「な、なぁ、あれ…」


エルフB 「うっ、うおっ! なんだあのデカブツは!」


エルフD 「……あいつどう考えても敵だよな。奥にやったらマズくないか?」


エルフC 「…ああ、そうだな。」


エルフB 「…潰しとくか?」


エルフA 「…ああ、そうしよう。」





そうです、シールド・ガーディアンは戻ってきたエルフの戦士達によって足止めされていたのです。事情を知らないレイオスは戦闘中だろうとお構いなしにうろたえ始めます。





レイオス 「………!? なんだ、どうした!? 何があった!! 何故来ない、シールド・ガーディアン!」


ルイン 「…事情はよくわからないが…どうやら万策つきたようだな。」


レイオス 「…くっ…調子に乗るな! 貴様ら如き、私一人で充分だ!」





息巻くレイオスを黙らせたのは、ルインの渾身の一撃でした。見事にクリティカル・ヒットし、レイオスが傷口を押えて数歩よろめきます。しかし即座に手を伸ばして生命力を吸収しようと目論みますが、攻撃は2回とも外れ。この瞬間、レイオスの敗北が確定しました。続くミュールインの手番で容赦のない攻撃を受け、"疫病王"レイオスは断末魔の雄叫びとともに爆発しました。










こいつも爆発しやがりました…












アル以外のPC達が、8D6の爆発によって大ダメージを被りました。しかしながら、死者を一人も出すことなく勝利いたしました。敵ながら手強い相手でした。

しかし勝利を喜ぶのも束の間…部屋の入り口に突然、何者かの気配が漂い始めました。一行が振り返ると、そこには1体の人形が立っていました。










人形 「ホッホッホッ、レイオスを倒すか。こいつは面白い嬢ちゃん達じゃ。さすがにあの虫を倒しただけのことはある。」


ルイン 「なっ、誰だ貴様は!?」


人形 「わしか? 早い話が、嬢ちゃんらが敵対している組織…エリスヌル・コンフィダントの幹部じゃな。」


レイム 「あの虫って…まさかイーストパスの東にある鉱山地帯の…!」


人形 「さよう。アレは…巨大ヒヨケムシとでも呼ぼうか。わしの自慢の作品じゃったんだが、まさか倒されてしまうとはのぉ。」


ルイン 「作品…あんな凶悪なモンスターを作ったというのか…」


人形 「まぁ、シュリエックが呼び出すオリジナルよりは劣るがの。…おっと、自己紹介がまだじゃったな。わしの名はゼッペス。覚えておいてくれ。」


レイム 「ゼッペス…ゼッペスだって!?」


人形 「ホホ、嬢ちゃんとはどこかで会っておったかのぉ…? はて、思い出せんな。」


レイム 「アウストの森を覚えているかい?」


人形 「アウスト? …アウスト…アウスト………おお、アウストか! 知っとる、覚えておるぞ!」


レイム 「アタイはそのアウストの森の生き残り、レイム・シュアー! みんなの仇だ、覚悟しなッ!」


ルイン 「仇…それではこいつが、レイム殿の森を滅ぼした!?」


人形 「ひどい言種じゃのぉ。あれはお主らがわしの要求に従わず、あの石を守り通そうとしたからじゃ。」


レイム 「あの石って…まさか!」


人形 「なんじゃ、知らなかったのか? アウストの森に封印されとったのも嬢ちゃん達が集めとる輝石の1つじゃぞ。」


ミュー 「レイム…どういうこと…?」


レイム 「アタイの村の石碑に石が一つはめ込まれていたんだけど…どうやらそれが輝石の1つだったみたいだ。」


人形 「連中がおとなしく言うことを聞いておれば、あのような悲しい出来事は起こらなかったというのに…まことに残念な話じゃ。」


ルイン 「そこまでして輝石を集めて、一体何がしたいんだ!! あの石がどんなものか知っているのか!?」


人形 「少なくとも、嬢ちゃん達よりは知っておるぞ。逆に嬢ちゃん達は、封印に使うための石ころぐらいにしか理解しておらんじゃろ?」


全員 「……………。」


人形 「わしらにはわしらの目的があってあの石を集めておる。まぁ、あの森の連中はそのための尊い犠牲とでも言うべきかのぉ。」


レイム 「それ以上勝手ばかりぬかすんじゃないよっ!!」





レイムは素早く詠唱を終えると、目の前の人形に向かってアイス・ストームの呪文を放ちます。人形は見る見るうちにバラバラに吹き飛んでいき、後に残されたのはその残骸と、室内にこだまするゼッペスの声だけでした。





レイム 「生身のあんたと出会った時には、こんなもんじゃ済まさないからね!」


ゼッペス 「ホッホッホッ、怖い怖い。殺されてはかなわんからな、わしは帰るとするよ。さて、嬢ちゃん達や、また会おうぞ。」





今度こそ完全にゼッペスの気配が消え、周囲に静寂が訪れました。





レイム 「あいつは…あいつだけは必ず…」


エルフA 「お〜い!! 無事か〜!?」


ルイン 「あ、あなた達は!! 村に戻ったのではなかったのか!?」


エルフC 「なんだか居ても立ってもいられなくなってな。武器持って加勢に来たんだが…必要なかったみたいだな。」


ルイン 「なるほど、“しーるど・がーでぃあん”とやらを片づけてくれたのはあなた達のようだな。まったく、大したものだ。」


エルフB 「そういうあんたらもな! 女のくせに大したもんだぜ!」


レイム 「ははは、これで病気が森に蔓延することもないでしょ。もう大丈夫だよ。」










その後程無くして、ジャーナーのヒルソンが治療薬の複製に成功したため、銀森のエルフ達はみな深刻な状況から回復しました。こうして今回の事件は無事に解決したのでした。

銀森のエルフ達に別れを告げた一行は、再びジャーナーの町へと戻り、ゆっくりと心と体を休めるのでした。










新たな事件が起こったのは、その翌日の朝でした。






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