第12話 憎しみという名の刃 後編
屋上に上がると、1人の少年が立っていました。しかしその様子はどこかおかしく、心ここにあらずといった様子でブツブツと何かを呟きながら、怪しく光る水晶球のようなものを抱きかかえていました。
ルイン 「君っ! 大丈夫か!?」
少年 「…ねばいいんだ…みんな…ボクをいじめる……はみんな…死ねばいいんだ…」
ルイン 「うっ…」
レイム 「ま…まさかこの子が? ゼッペスや組織の連中の仕業じゃなかったのかい?」
少年 「…お姉さん達……誰…?」
ルイン 「学院長の依頼を請けて、校舎内のモンスターを退治しに来た者だ。」
少年 「…へぇ……僕の虫達をやっつけたんだ…すごいね…」
レイム 「ほ…本当にアンタがやったの?」
少年 「そうだよ…でもいいでしょ? 僕は毎日…あいつらにいじめられてきたんだ…これぐらいのことしたって…」
ミュー 「…いじめ…?」
スクイッド 「うん…僕の名前は"スクイッド"っていうんだ…みんな「イカ」って呼ぶんだよ…ひどいと思わない…?」
ルイン 「だからと言って、こんなのやりすぎだ! もう少しで怪我では済まなくなるところだったんだぞ!」
スクイッド 「…ふふふ…僕は怪我で済ますつもりなんてなかったんだけどなぁ…」
レイム 「ッ!?」
少年の不吉な一言に共鳴するかのように、水晶球が怪しい光を放ちます。すると、光の中から巨大ヒヨケムシがズルズルと這い出してきました!
スクイッド 「邪魔…しないでよ……でないと…お姉さん達から殺しちゃうよ…?」
ミュー 「…ルイン…あの球…怪しい…」
ルイン 「そのようだな、こうなったら力づくでも取り上げるぞ!」
戦闘開始後、ルインとミューが左右に展開してヒヨケムシを挟撃し、2人の攻撃+「追い打ち」でhpを一気に奪い去りました。ルインがヒヨケムシの攻撃を受けて、「つかみ強化」で組み付かれてしまいますが、自分の手番で即座に脱出。挟撃を維持してミューの「急所攻撃」を誘発させます。ミューの全力攻撃+アルが誘発させた「追い打ち」のダメージによって、ヒヨケムシは沈みました。
その後、少年が持っていた水晶球をルインが叩き斬り、戦闘は終了しました。
スクイッド 「…ううっ………あれ…ここは………? ……お姉さん達は……誰…?」
レイム 「…え? 何も覚えてないのかい?」
どうやらこの少年は心を支配されていたようです。数日前の下校時に、怪しい仮面を逆さにつけたローブの男に路地裏に誘い込まれ、「あなたをいじめたやつらに復讐したければ、この球を覗き込んで見なさい。」と言われたのだとか。そしてその球の中心で揺らめく黒いもやのようなものを見てから、その先はまったく覚えていないとのこと…
スクイッド 「ねぇ…あの後、いったい何があったの? どうしてボクはこんなところにいるの?」
レイム 「え…えっと〜…」
ルイン 「………君にその怪しい玉を渡した仮面の男が、モンスターを連れてきてこの学校を襲撃したんだ。」
スクイッド 「…えっ!?」
ルイン 「私達は学園長の依頼で、逃げ遅れた君を助けに来たんだ。」
スクイッド 「…ほ…本当なの?」
レイム 「そ、そう! そうなんだよ! 恐かっただろう? もう大丈夫だよ!」
ルイン 「ああ、みんなのところへ帰ろう。」
スクイッド 「うん、ありがとう!」
スクイッド君を連れて校舎の外へ出ると、校門のあたりからこちらに向かって歩いてくる人影が…
シュリエック 「オ〜ッホッホッホッ!! まさかこんなところでアンタ達に出会うとはねぇ!」
ルイン 「お前は………シャ……シュ……シュ…………え〜っと……」
ミュー 「…オカマ…」
ルイン 「…あっ! そう、それだ!」
シュリエック 「シュリエックだって言ってるでしょうがッ!! いい加減名前ぐらい覚えなさいよ、このバカ共がッ!!」
スクイッド 「……あ……あの人は……」
シュリエック 「……あらぁ? この間のぼうやじゃない! ずいぶんとハデにやったみたいねぇ、関心関心♪」
スクイッド 「……えっ? ……どういう…こと…?」
シュリエック 「なぁんだ、記憶がないの? じゃあ、自分がいったい何をしたかも覚えてないってワケね…せっかくだし教えてあげようかしら?」
ルイン 「黙れ外道がっ!! それ以上ほざくなっ!!」
シュリエック 「あはははは!! ずいぶんと優しいのねぇ!! まぁ、別にいいけど? いずれわかることでしょうし。」
レイム 「やっぱりアンタ達の仕業だったんだねっ!!」
シュリエック 「アンタ達? いいえ。まぁ、ゼッペスじいさんの新しいおもちゃの実験も兼ねていたけど、今回の件はほとんどアタシの私怨よ。」
ルイン 「私怨だと…? どういうことだ!」
シュリエック 「さぁてね〜♪ 無事に帰れたら、ここの学園長にでも聞いてみたら〜? ……もっとも、無事に帰れたら…だけどね。」
ルイン 「貴様こそ、無事に帰れると思っているのか?」
レイム 「逃がしはしないよ!」
シュリエック 「残念だけど、アンタ達の相手をしている暇はないの。こいつと遊んでなさい!」
そう言うとシュリエックは呪文を唱え始めた。呪文の詠唱が終わると、一行の目の前に展開された魔法陣から、超大型のムカデのような魔獣が姿を現しました! そしてシュリエックはその魔獣の姿を満足そうに見つめた後、ディメンジョン・ドアを発動させてその場から立ち去りました。
レイム 「くそっ! また逃がした!」
ミュー 「…来るよ…」
スクイッド 「うっ! うわああぁぁぁぁぁっ!」
ルイン 「君は校舎の中まで下がっているんだ! ミュー、いくぞっ!」
ミュー 「…わかった…」
敵の名はギガピード、巨大な体、強靭な顎、無数の足を持った凶暴な魔獣です。
先制したレイムがサモン・ネイチャーズ・アライWの詠唱を開始し、ルインとミューとアルは敵が立ちすくみ状態のうちに間合いに飛び込み、攻撃を行います。しかし攻撃を当てられたのはミューのみで、残念ながら「追い打ち」能力も発動しませんでした。
そしてギガピードの番、ルインが噛みつかれ、そのまま「ひっつかみ」の能力で組み付かれてしまいました。続くレイムの手番でギガピードの背後にジャイアント・クロコダイルが出現しましたが、攻撃がルインに当たるかもしれないので待機。ルインは脱出を図りますが、2段階もサイズが違う魔獣相手では分が悪く、状況を好転させることはできませんでした。
ギガピードは「ひっつかみ」の能力で噛みつきのダメージを与えた後に、標準アクションを使用してルインをブン投げました。ロールの結果40フィート(校舎すれすれ!)投げ飛ばされ、落下ダメージを負うことに。しかしこれで何も気にせず攻撃をすることができます。
レイムはコール・ライトニングの呪文を発動させ、敵の巨体に余すところなく稲妻を降り注がせましたが…ギガピードの外骨格は、まるで鏡が光を反射させるかのように呪文を跳ね返してしまいました! そんなんアリかよ…
となればもう、近接戦しかありません。ブーツ・オヴ・スピードを起動させて移動距離を伸ばしたルインがすぐさま戦線に復帰すると、ミューとともにクロコダイルと挟撃状態に入り、攻撃を開始します。2人+1匹で大ダメージを与えると、ギガピードは後ろを振り返り、クロコダイルに狙いを定めました。しかしこれが最終的には敵のミスとなるのでした。
結果としてギガピードは1ラウンドの間クロコダイルを拘束し、PC達からの攻撃も防ぎきりますが…その間にもレイムはサモン・ネイチャーズ・アライVの詠唱を開始していました。今度はライオンを召喚し、それと同時に、組み付かれていたクロコダイルを召喚していたサモン・ネイチャーズ・アライWを解除! そして一斉に開始されるPC達の猛攻、致命の一撃を受けたギガピードは、耳をつんざくような断末魔を上げて校庭に崩れ落ちました。
こうして、グランド・ストーン魔法学院で起こった事件は幕を閉じました。学院長にシュリエックのことを尋ねてみると、彼は元グランド・ストーン魔法学院の生徒だったということが明らかになりました。しかし、成績は極めて優秀だったものの、本人の人格があまりにも邪悪だったことと、方法は不明ですが見たこともない凶悪な虫の魔獣を呼び出す謎の呪文を習得したことにより、学院を追放されたのだとか…
彼の私怨というのは、かつて自分を迫害した学院への復讐…だったのでしょうか。いずれにせよシュリエックの企みは今回も、彼女達の手によって阻止されたのでした。
しかし、気になることが2つあります…ます1つ目は、シュリエックの「ゼッペスの新しいおもちゃ」という発言。これは十中八九、スクイッド君が持っていた水晶球のことなのでしょうけど…持ち主の自我を奪い去り、代わりに極めて凶暴な人格を植えつける。同時に、シュリエックしか呼び寄せることのできない古代の魔獣を召喚する能力も与えるという…おもちゃとは対極に位置する凶悪なアイテムです。もし組織がこんなものを量産でもしたら…世界中に巨大ヒヨケムシのような凶悪な魔獣が姿を現し、大惨事となってしまうでしょう。
2つ目はシュリエックについて。今思えば、あの時ゼッペスは巨大ヒヨケムシについて、「シュリエックが呼び出すオリジナルよりは劣る…」という発言をしていました。今回の一件で、その発言の意味がようやく理解できました。学院長の話では、彼が習得した召喚術は現在では失われた呪文の1つで、古代の魔獣を呼び出す呪文。つまり巨大ヒヨケムシも、先刻戦ったギガピードもピンチャー・ビートルも、すべてシュリエックが呼び出した古代の魔獣だったのです。いったいどのようにしてそんな呪文を習得したのでしょうか?
一行は、「必ずエリスヌル・コンフィダントの野望を阻止する!」という意思をよりしっかりと固め、ジャーナーを後にするのでした。
彼女達の次の目的地はニオル・ドラ。銀森を越えた先にある、キーオランド王国の首都として知られる町です。キーオランド王国といえば、この大陸で一番最初に辿り着いたグラドサルもキーオランド王国の町です。
偶然にも再びキーオランド王国へと向けて出発した一行。そこでは"彼"との、必然とも言うべき運命の再会が待っているということなど、彼女達は知る由もないのでした。