決戦 〜虐殺の砦〜 前編
それは、ある昼下がりのことでした…
客A 「ぎゃーっはっはっはっはっ!! …っとぉ、もう酒がねぇや。おーい、バークの旦那! エールおかわり!」
客B 「おっ、俺も俺も! あとピクルス出してくれ!」
バーク 「ん? なんだ、ピクルスがもうないな…おーいディザーカ! 皿洗いは後にして、裏からピクルス取って来てくれ!」
ディザーカ 「おう、わかった!」
客C 「へっへっへっ、旦那。あのボーヤが来てからずいぶん楽できるようになったんじゃねぇか?」
バーク 「まったくだ。お前らの注文の容赦のなさときたらもう…とても一人じゃ捌けねぇや。」
客達 「はははははは!!」
バタンッ!!
役人A 「お前ら、一歩も動くな!!」
客A 「な!? お、お役人だとぉ!?」
役人A 「貴様が店主だな? この店にディザーカ・ヘディとレオン・キャットという男がいるはずだ。すぐに連れて来い!」
バーク 「……………理由は?」
役人A 「やつらは大罪を犯した。それ以上は貴様に話す必要がない。」
バーク 「…………………。」
突然現れ、ディザーカとレオンを差し出すように強制する役人達。その様子を階段の踊り場から身を潜めて窺うレオン。
レオン 「……………。 (あれ…? 俺、なんか悪いことしたっけ?)」
役人B 「早くしろ! 貴様も同罪と見なすぞ!」
バーク 「いやぁ、連れて来たいんだが…ディザーカは山に芝刈りに、レオンってやつは川に洗濯に行っちまった。」
役人C 「なっ! きっ、貴様ーッ!!」
ディザーカ 「おっさーん! ピクルスこれが最後の1本だ……ったんだけど…あれ? どうかしたのか?」
役人A 「いたぞ! こいつがディザーカだ!」
バーク 「…ったく、このバカ野郎が!!」
ドカッ!!
役人A 「ぎゃあっ!」
役人B 「なっ!?」
バーク 「ディザーカ! レオン連れてどっか行け! おいお前ら、役人ブッ飛ばしたやつは飲み代全額タダにしてやる! 手ェ貸せや!!」
客達 「おっしゃーっ! ケンカだァァァ!!」
ディザーカ 「へ? へ? な、何なんだ!?」
レオン 「ディザーカ! 行くぞ!」
ディザーカ 「レオン!? 行くってどこへ!?」
レオン 「どこでもいいんだよ! とにかくここから逃げるんだ!」
一方その頃、東町の魔法院では…
イリード 「ふぁ……ねむ…もう帰って寝よ……」
ミカ 「ですから、彼女はもう帰りました! 校舎内には残っていません!」
役人D 「ならば校舎内を捜査しても構わんだろう!」
イリード 「……………?」
役人E 「そうだ! お前のその行為自体が、イリードが中にいると言っているようなものだ!」
イリード 「………なによ…あれ…なんで役人が? …っていうか、あたしを探してるの?」
役人D 「とにかく、建物の中を捜査させてもらう! どけ!」
ミカ 「あ、ちょっと! 待ちなさい!」
イリード 「まずっ! もぅ、なんなのよ! 夜を支配する闇の精霊よ…汝の黒きヴェールを我に与えたまえ…インヴィジビリティ!」
姿を消したイリードは、さらに手持ちのスクロールからスパイダー・クライムの呪文を発動させ、窓から壁面を伝って脱出し、難を逃れました。
時を同じくして、ヒルガ大聖堂…
役人F 「アリシュア・クラウルを出せ! いるのはわかっているんだぞ!」
ドンドンドン!
アリシュア 「し…司祭様…」
司祭 「アリシュアよ、裏口も囲まれておる。私が奴らを奥へと招き入れる。お前はそこの物陰に隠れ、奴らが中に入ってから外に逃げなさい。」
アリシュア 「しかし、それでは司祭様が!」
司祭 「なぁに、奴らとて役人の端くれ。素直に従えば手荒な真似はされんだろう。」
アリシュア 「……司祭様、申し訳ありません…」
司祭 「よいのだ。それよりも…何故アリシュアが追われているのかはわからんが、本当に心当たりはないのだな?」
アリシュア 「はい、ペイロア様に誓って!」
司祭 「ならば必ずや、無実を証明して見せなさい。汝にペイロア様の加護があらんことを…」
ギィ…
司祭 「何ですか騒々しい。神の御前ですぞ。」
役人G 「ふん、その神の信徒が重罪を犯したのだ! 調査させてもらうぞ!」
司祭 「どうぞ、奥に案内しましょう。心行くまでお調べなさい。」
役人F 「ふん、やけに物分かりがいいな。おい、行くぞ!」
アリシュア 「司祭様…どうかご無事で…!」
こうして、理由もわからずトーチ・ポートの役人達に追われることになった一行。その後すぐに、聖堂付近の路地裏でイリードとアリシュアが、そして平和橋付近で全員がバッタリ。お互いがお互いの身を案じた行動を取ったため、比較的早く合流することができました。
橋の下に身を隠し、状況を整理することに。
ディザーカ 「よかった、みんな無事だったんだな。」
アリシュア 「ええ、なんとか…」
イリード 「レオン、あんた今度は何をやらかしたの?」
レオン 「バカ言うな! 俺は何も知らねぇ!」
イリード 「うわ…もう自覚すらないってこと?」
レオン 「しつけぇよ! 怒るぞ!」
アリシュア 「ま、まぁまぁ! とにかく状況を整理しましょう。」
ディザーカ 「整理ったって、何が何だかサッパリだぞ?」
イリード 「役人のことは役人に聞いた方が早いんじゃない?」
レオン 「そうか! ペンズさんか!」
アリシュア 「ええ、あの方なら何か力になってくれるかもしれませんね!」
ディザーカ 「よし、それじゃあペンズのオッサンのお屋敷に行ってみようぜ!」
イリード 「………あれ? 一人捕まえて尋問すれば手っ取り早い…っていう意味で言ったんだけどな…」
こうして、コソコソと移動を開始する一行。時間こそかかりましたが、役人に見つかることもなく無事にペンズのお屋敷に到着。
予想に反して、お尋ね者となった一行をペンズは温かく出迎えてくれました。
レオン 「ふぃ〜、助かったぁ〜…」
アリシュア 「すみません、ご迷惑をおかけします。」
ペンズ 「何を言う。私は以前、君達に命を救ってもらったんだ。これぐらいお安いご用だ。」
ディザーカ 「だけどこれ、いったい何がどうなってるんだ?」
ペンズ 「それについては私が説明しよう。」
アリシュア 「知っているのですか!?」
ペンズ 「ああ、何故君達が追われているのか…ぐらいはな。」
ペンズの口から語られた真実は、衝撃的なものでした。
そもそも今回の事件は、トーチ・ポートの付近の山間にあるフィガロ砦が攻め落とされてしまったことから始まります。この砦は、本来トーチ・ポートをゴブリンやオーク達から守るために建てられた砦で、多くの兵が詰めていたのですが、何者かの襲撃を受けて一晩のうちに制圧されてしまったのだとか。
そして先日…その砦からやってきた使者が、「この4人を差し出せば、フィガロ砦も、砦にいた人々も返してやろう。」と一行の身柄を要求してきたのでした。これに対応して、即座に東西の役人達が集合して緊急会議が開かれました…が、結果は火を見るより明らかでした。
フィガロ砦を失っては、トーチ・ポートの町がモンスター達に侵略されてしまうかもしれない…また、そもそも向こうの要求を呑まなければ、精鋭を集めた砦を一晩で制圧するほどの戦力を有した、得体の知れない連中が町に乗り込んでくるかもしれない…
ペンズを含む少数の役人が意義を申し立てましたが、結局は少数意見として揉み消され、「一行を差し出す。」という方向で話はまとまりました。さらに、一行には麻薬密売という冤罪を着せて、問答無用で取り押さえてしまおうと考えたのだとか。
ペンズ 「……以上が、君達が役人に追われている理由だ。」
イリード 「フン、要は我が身かわいさに、あたし達を生贄に捧げようってことじゃない。」
アリシュア 「イリードさん!」
イリード 「わかってるわよっ! …でも…あたしはあんたほど素直にはなれないわ。」
アリシュア 「………………。」
イリード 「あたし達が命を賭けて守ろうとしているものって…この程度のものだったの?」
ペンズ 「…すまん…私からは、それしか言えん。」
ディザーカ 「気にすんなって。オッサンのせいじゃないだろ?」
レオン 「そうそう。それよりも、この後どうするかを考えようぜ。」
アリシュア 「…敵はおそらく…」
イリード 「ええ、あの女ね。」
レオン 「くそっ! こんなワケのわからねぇ鍵1つのせいで大勢の人が…」
ディザーカ 「俺達で砦を奪い返して、人質になっている人達を助けてやろうぜ!」
アリシュア 「そうしましょう! イリードさんも、いいですね?」
イリード 「やるしかないでしょ? でも勘違いしないでよね。あたしはあくまでも、あたしのために戦うんだから。」
ペンズ 「…君達…やってくれるのか?」
レオン 「っていうか、オレ達以外の誰がこんなことやるんです?」
イリード 「冤罪で連れて行かれるよりずっとマシよ。こっちから乗り込んで大暴れしてやるんだから。」
ペンズ 「すまない、私達が無力なばかりに…どうか気をつけてくれ。」
アリシュア 「心配なさらないでください。必ず砦を奪還し、人質の皆様を助けてまいりますので。」
ディザーカ 「グレイト! 燃えてきたぜ!」
こうして一行は、自らの意思で砦に乗り込み、徹底抗戦を仕掛けることを決意しました。敵の頭はリベルカ…となると、恐らく砦は魔族に支配されたとみて間違いありません。こうなっては、生存が確認できていない人質の安否が気になります。なるべく迅速に準備を整え、砦に向かうことを決めました。さしあたって、フィガロ砦にトーチ・ポートから物資を運んでいた商人にコンタクトを取り、納品に使用していた裏口の所在などを教えてもらいました。人質が生きていた時のことを考え、裏から潜入する作戦で行くことに。
そして一行は、夜中のうちにトーチ・ポートを出発し、日が昇り始めた頃にフィガロ砦に到着しました。姿を隠すのには不便ですが、相手が人間でない以上、夜襲をかけるよりは日の光が出ている昼間に乗り込んだ方がいいかもしれないと考えたためです。
そして、砦の近くで夜明けの太陽を眺める一行………彼らの長い1日が今、始まったのです。