第09話 数多の腹心 前編
今よりはるか昔、大陸中を巻き込んだ大戦争が起こった。大地は焼かれ、空は荒れ、大勢の者が争い合い、命を落としていった…
憎しみがさらなる憎しみを呼び、世界は混沌に包まれた。
終わりなど永遠に訪れないのではないかと、誰もが絶望に心を支配されたその時…『それ』は目を覚ました…
…地の獣…大地より生まれし破壊の化身…
地の獣は、海を割り…山を砕き…森を薙ぎ払い…世界の全てを破壊しつくした。
その身に宿した圧倒的な破壊の力は、人間同士の争いが戯事に見えるほどに強大なものだった。
この畏怖すべき存在に対抗するために、人々は争いを止め、知恵と力を合わせ、地の獣を封印すべく5つの輝石を作り出した。
その輝石の力によって、人々は地の獣を大地の奥深くに封印した。
こうして…崩壊しかけた世界に、再び平穏が訪れたのだった。
…とまぁ、これが前回出会ったエベルクに話してもらった、この世界の歴史です。エベルクは、大戦を生き抜いた数少ない戦士の一人で、ドワーフ族の中では英雄的な存在だったようです。そのため、地の獣を封印した5つの輝石のうちの1つ…『風塊石』を授けられたのでしょう。
エベルクは、地の獣の封印が弱まっているとも言いました。このまま何もせずに放っておくと、あと数年もしないうちに地の獣が目覚めてしまうかもしれません。そうなれば…後に残されるのは破壊しつくされた世界と絶望のみです。再びそんな悲劇を繰り返すわけにはいきません。彼女達は、5つの輝石を集め、再び地の獣を封印し直すことをエベルクに誓い、彼が持っていた『風塊石』を受け取りました。
ただ漠然と「大陸の中心を目指す」だけだった彼女達の旅の目的は、「輝石を集めながら、大陸の中心にある封印の地を目指す」へと変わりました。世界の命運を背負うにはまだまだ小さすぎる背中かもしれませんが、確固たる信念を抱いて、彼女達は今、新たな旅立ちを決意するのでした。
あらすじがずいぶん長くなってしまいましたね。そろそろ今回のお話に入りましょう。
金目当てで忍び込んだ遺跡で、世界を救う使命を背負うことになってしまった一行。焦っても仕方ないので、とりあえずグレンに借金を返して、数日の間町で休息をとりました。そしてさらに数日後、この後どうするか作戦会議。
輝石に関する情報が少なすぎるため、最終目的地はグレイホークのまま、途中にある町で情報を集めながら進んで行こうということで話はまとまりました。とりあえずグリラックスを出発し、北にあるイーストパスを経由して、最終的には北西にあるウレク伯国の首都、ジャーナーを目指すことに決定。グレンは数日前に1人でさっさと出発してしまったようなので、こちらも早速仕度をして、後を追うことにしました。
ルイン 「う〜ん…結構買ってしまったな。これでだいたい揃ったか?」
ミュー 「…薪がない…」
レイム 「あ、忘れてたわ。」
ルイン 「それは危ないところだった。では、早速買いに行くとしよう。」
チンピラA 「おい、見ろよ。あいつらじゃねぇか?」
ミュー 「………………?」
チンピラB 「ああ、間違いねぇ。いくぞ。」
レイム 「……ん? どしたのミュー、置いていくよ?」
ミュー 「…誰か…近づいてくる…」
レイム 「…え?」
チンピラA 「よぉ、姉ちゃん達、ちょっといいかい?」
レイム 「何だいアンタ達、アタイ達に何か用かい?」
チンピラC 「へっへっへっ…身包み全部置いていきな。」
レイム 「ハァ!?」
チンピラB 「オラ! 痛い目見たくなかったらさっさとしやがれ!」
ルイン 「お〜い、何をしているんだ。まさか私一人に買いに行かせるつもりなんじゃな…って…誰だこの男達は?」
レイム 「あ、ルイン!」
ミュー 「……物盗り…」
ルイン 「何ィ…? 物盗りだと…?」
チンピラA 「オイオイ、そんな睨むなよ。出すモンだしゃあ、何もしねぇからよ。」
チンピラC 「そうそう。言うとおりにした方が身のためだぜぇ?」
ルイン 「貴様ら、ふざけるなっ!!」
チンピラ達 「!?」
ルイン 「いったい何のためにこの世に生まれてきたんだ!! 人に迷惑をかけるためか!? 違うだろ!!」
レイム 「ちょ、ちょっとルイン!」
ルイン 「女を脅して小金を得ようなど…男として恥ずかしいとは思わないのか!? 恐喝しているヒマがあったら働け!!」
チンピラA 「う、うるせぇんだよっ!! テメェ調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
チンピラB 「もうキレたぜ!! やっちまえ!!」
ルイン 「な、何を怒っているんだ、こいつらは。」
レイム 「全部アンタのせいでしょうがー!!」
この手の連中に正論ぶつけても、火に油ですよねー。成り行きとはいえ、町中で暴れるわけにもいかないので、最後のチャンスということでルインが<威圧>判定。低い達成値ではあったものの、チンピラ達の出目も悪く、判定成功。勢いよく襲い掛かってはきたものの、刀に手をかけて身構えた瞬間、情けない悲鳴をあげて怯え始めました。そのままお説教モードに移行。
説教の間にいろいろ話を聞いてみると、どうやら彼らは何者かに雇われていたようです。このことについての情報を引き出す<交渉>判定には、レイムが成功。アメとムチをパーティ内で巧みに使い分けます。
彼らは、「スクイル」という男に雇われたと言い出しました。詳しく聞いてみると、この町にある何件かの酒場によく出入りしているローグで、危険な人物のためかずいぶんと恐れられているようです。彼らも、半ば強制的に従わされて、今回のようなことをしたのでしょう。
そのスクイルという男について、詳しく聞いてみようと思ったその時…信じられない事態が発生します。なんと、町中にモンスターが出現したのです! 敵はハウラーという、無数の長いトゲを生やした四足歩行獣が2体。こちらに向かって迷うことなく突っ込んできます。逃げ腰のチンピラ達を脇の路地から逃がし、PC達は戦闘を開始。
このハウラーというモンスターは、すごくいやらしい能力を持っています。攻撃を当てた敵に背中のトゲを突き刺し、行動に制限をかけてきます。判定にマイナス修正がつくので、何とかして先手を取りたいところだったんですが…レイム以外はみんな後手…結局ルインとアルがハウラーの攻撃を受け、トゲを避けきれず、判定にマイナス修正を加えられてしまいます。しかも、その後の手番でファンブルが続発。ぶっちゃけやってられません。
ですが、そんな奴でも挟撃要員にはなります。機動力を活かして敵を追い込み、ミューが急所攻撃で1体ずつ撃破。5ラウンドほどかかってしまいましたが、なんとか勝利。
さて、スクイルという男がどうしてピンポイントで我々を狙っているのかがわからないので、その辺の情報を集めるために近くの酒場へ行くことに。町民に、「この辺で一番粗末でガラの悪い酒場はどこだ?」とか、『BLACK LAGOON』のロベルタみたいなセリフを吐いて店まで移動。
入り口付近のテキトーなチンピラを捕まえて<交渉>開始。達成値が少し足りなさそうだったので、金貨を数枚握らせて情報をゲットしました。どうやらスクイルは、仮面を着けたオカマ口調なウィザードと一緒に行動しており、夕方に町外れの廃屋でよく待ち合わせていたところが目撃されているようです。また、この二人はグリラックスに住む人間の貴族、イグルア・フェルダムルスの屋敷に出入りしていることも判明しました。さらに、イグルアが税関に、「風が渦巻いたような模様の石を見つけたら徴収すること」という命令を出していることまでわかりました。
連中の戦力と、出現場所、さらには狙いまでもが一気にわかりました。どういう理由かはわかりませんが、我々が持つ『風塊石』を狙っているようです。さっさと町から逃げ出そうにも、税関がこんな状態では抜けきれないので、こちらも行動を開始することに。
貴族の屋敷に侵入すると、見つかった時にいろいろと厄介なので、とりあえず町外れの廃屋から当たってみることに。時刻もちょうど夕暮れ時なので、買った物を宿に置いて、それから出発しました。