第13話 穢れた楽園 後編
屋敷の中は、床や壁、天井のありとあらゆる部分が捩れ、歪曲し、様々な方向へとぐにゃぐにゃに曲がりながら伸びていました。天井が床になり、床が天井になり、壁が床になる…今、自分達が立っているのが果たして屋敷のどの部分なのかさえもわからなくなってくる…そんな非現実的な空間でした。
かろうじて進める方向に進んで行くと、室内を二本足でピョンピョンと飛び跳ねる奇妙な生物と遭遇。フレッシュ・リーヴァー(肉裂き怪物ほどの意)という名のこのモンスターは、一行を見つけるや、獰猛そうな牙を剥き出しにして飛び掛ってきました!
素早く移動して攻撃を仕掛けてくるフレッシュ・リーヴァー。ルインに噛みついた後、フリー・アクションで足払いを仕掛けてきますが、対抗ロールに勝利して事なきを得ます。
そしてルインが、返しの全力攻撃で亡き者にしてやろうと大刀を振り下ろした瞬間、緊急事態が発生! 敵に攻撃が命中したと同時に、ルインの身体にも激痛が走ったのです!
「呪詛返し」と命名された特殊能力を持つフレッシュ・リーヴァーは、受けたダメージの半分を相手にも返す特殊能力を持っていました。意思セーヴに成功すれば無効化できるようですが、ルインは残念ながら失敗。大型バスタード・ソードの火力が裏目に出てしまいます。
ACはそれほど高くはないため、ガシガシ攻撃は当たるのですが、その度にビクビクしながら意思セーヴしなきゃいけません。リソース削るためだけに存在しているこのモンスターが憎くて憎くて仕方ねぇ…数ラウンド後に決着は付きましたが、戦闘後の回復でキュア・モデレット・ウーンズのワンドのチャージ数が激減してしまいました。
奥に進むと、謎の魔法陣を発見。グレンの<呪文学>判定の結果、どこかへの転送円のようです。そして、今は魔力が遮断されており、機能していないということもわかりました。
屋敷内を移動し、数体のフレッシュ・リーヴァーやソウル・ハーヴェスターを倒した一行。さらに奥へと歩を進めると、通路の捩れは収束していき、最後には人間の拳がやっと入るぐらいの小さな隙間になってしまいました。その先をミューが<視認>してみたところ、壁に小さなくぼみのようなものがあることがわかりました。形から推測するに、村を捜査していた時に見つけた「パズルのピースのような金属片」がはまりそうな形です。
ここでレイムが「アタイに任せておきな。」と言いながら前に出ます。自然の化身能力で小鳥へと姿を変えたレイムは、わずかな隙間を通って向こう側へと移動します! その後、壁越しにミューから金属片を受け取り、くぼみへセット。
再び小鳥に変身して合流した一行は、先程の魔法陣があった場所まで戻ります。すると、描かれた魔法陣の線が淡い光を放ちながら明滅しています。どうやら魔力供給が再開され、転送円としての機能が復活したようです。もう行けるところはすべて調査したので、一行は転送円の上へと足を踏み入れ、その先へと転移します。
しかし、転送した先で待ち構えていたものは…
※グロ注意
ルイン 「な、なんだ…こいつは…?」
グレン 「……これは…また…なんとも… (うっぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!)」
レイム 「これとやれってのかい? まったく、冗談キツいねぇ…」
ミュー 「……あ…ルイン。部屋の奥…」
ミューが指差した部屋の奥には祭壇があり、その台座の上には黒く輝く小さな宝石のようなものが安置されていました。同時に、一行が持つ輝石も、より強く明滅し始めました。
グレン 「ひょっとして、輝石ですか!?」
レイム 「間違いなさそうだね!」
??? 「グググ…キセキヲヨコセ…」
ミュー 「…やだ。」
ルイン 「相手が相手だ、手段を選んでいるヒマもないか…力尽くで奪い取るぞ!」
転送先で一行を待ち構えていたものは、ディセクレイション・エレメンタルという名の超大型エレメンタルでした。
先手を取って左右に展開し、挟撃を仕掛けるルインとミュー。しかしエレメンタルは挟撃の対象にならず、クリティカルも急所攻撃も効きません。おまけにこいつもダメージ減少10/銀を持っており、ダメージのほとんどを軽減されてしまいます。グレンはヒロイズムをルインに投射し、高速化したマジック・ミサイルを放ちます…が、敵の呪文抵抗が克服できず、力場の矢は雲散霧消に立ち消えてしまいます。
レイムもフレイム・ストライクでダメージを与えようとしますが、呪文抵抗に阻まれて表情を歪めます。アルは攻撃できてもダメージが与えられそうにないので、レイムの前に立って防御専念。
ディセクレイション・エレメンタルは擬似呪文能力でプロテクション・フロム・グッドをかけた後、高速化したインフリクト・シリアス・ウーンズでルインを攻撃してきます。
ルインは《一撃離脱》で正面に戻り、仲間達のカバーに入ります。ミューは<軽業>でルインの後ろに移動した後、標準アクションを置換してシルヴァーシーンを準備。次の手番でルインの刀に使用するよう計画します。グレンの呪文はことごとく呪文抵抗の前に打ち消され、レイムは
ルインの回復に専念。一方敵は、全力攻撃でルインと熾烈な殴り合いを開始。
敵の攻撃命中後、意思セーヴを要求され、失敗してしまったルインは減速化の呪いを受けてスロー状態に。しかしブーツ・オヴ・スピードの効果が自動的に相殺されたため、大幅な戦力ダウンにはつながりはしませんでした。
シルヴァーシーンの効果で敵のダメージ減少をブチ抜けるようになったルインの猛攻により、敵は徐々に追い込まれ、短い悲鳴を上げます。しかし次の敵の行動宣言は…
擬似呪文能力:スレイ☆リヴィング(生者抹殺)
\(^o^)/
スレイ・リヴィングとは、頑健セーヴに失敗すると即死してしまう厨二病剥き出しの凶悪呪文です。対象となったルインの頑健セーヴ値は17で、目標値は19…この、「1が出なきゃOKッスよ!」っていう状況に、全員が並々ならぬデジャヴ感を感じたのは言うまでもありません。
ですが所詮は確立5%。結局はセーヴに成功し、一命を取り留めました。そしてこの呪文が敵の最後の抵抗でした。返しのルインの全力攻撃で、ディセクレイション・エレメンタルは灰となって消滅していきました。
輝石のある祭壇へと近づく一行…しかし、部屋の大部分を占めていたディセクレイション・エレメンタルが消滅したことで始めて気が付いたのですが、部屋の奥の祭壇の奥には、地下へと続く階段がありました。
そして階段から、一体のモンスターが姿を現しました!
魔物 「よくぞ悪の精霊を倒した、勇者達よ。」
ルイン 「なっ、なんだ貴様はっ!?」
魔物 「待て、私は敵ではない。」
レイム 「はいそうですか…って、信じるとでも思ってるのかい?」
魔物 「確かに…この姿では無理もないか。」
ルイン 「………。」
魔物 「だが、悪の精霊の手によってこのような姿になってしまったが…私もかつては、ここにある輝石を守る者だった。」
グレン 「それじゃあ、あれはやっぱり輝石だったんですね!」
魔物 「そうだ。この世の善と悪を司る輝石…正邪の石だ。」
レイム 「正邪の石?」
魔物 「ああ。この石は悪の力を吸収し、浄化する。だが、その力も無制限ではない。この村を見ればそれも分かるだろう。」
グレン 「悪の力を吸い過ぎると、浄化の機能が停止してしまう…とか?」
魔物 「その通りだ。もっとも、今は君達が悪の精霊を倒したことによって邪気が薄まり、浄化の機能が回復したようだが。」
輝石に視線を向ける一行…確かに、先ほどまで真っ黒だった輝石は、今や白と黒の勾玉模様になっていました。まだ白い部分は黒い部分よりずっと少ないですが…
グレン 「悪の精霊っていうのは…さっきの?」
魔物 「ああ。この村も最初は桃源郷として、善に溢れ、天使が舞い、平和な土地だった。だが…」
グレン 「だが…なんです?」
魔物 「輝石が邪気を吸収し過ぎたため、結果、このような死霊が溢れる村になってしまった。いつしか邪気は形を成し、悪の精霊となったのだ。」
ルイン 「邪気が形を成す…とは、"物の怪"の類か?」
ミュー 「……"もののけ"ってなに?」
ルイン 「…すまない、続けてくれ。」
魔物 「形を成した悪の精霊は、更なる力を得るために輝石を求め、村を移動させた。そして長い年月を経て…」
レイム 「近くに来たアタイ達の輝石に目をつけた…」
魔物 「その通りだ。だが、君達は悪の精霊を倒した。結果的に、私もこの村も、君達によって救われたのだ。」
ルイン 「そういうことだったのか…」
魔物 「君達の手に委ねれば、いずれはこの輝石も善悪の均衡を取り戻すだろう。さぁ、持って行くがいい、勇者達よ。」
レイム 「どうやらアンタ、正真正銘、輝石の番人のようだね。」
魔物 「信じてくれるか。…風塊石を持っているということは…君達はエベルクによって選ばれた勇者達か。」
ルイン 「エベルク殿を知っているのか!?」
魔物 「エベルクとは地の獣との戦い以来の戦友だ。彼もちゃんと役目を果たせたようだな。」
ルイン 「そうとは知らず…無礼の数々、お許し願いたい。」
魔物 「ははは、この姿では仕方あるまい。…さぁ、私も残された時間で役目を果たすとしよう。」
グレン 「この、正邪の石以外にも何か…?」
魔物 「輝石に関する知識だ。もっとも、私が知っている範囲で…だがな。」
ルイン 「聞かせてください。」
魔物 「自然の力を司る輝石。アウストの森の賢者が持つ、ハート・オヴ・フォレストについてだ。」
レイム 「っ!?」
魔物 「ハート・オヴ・フォレストは、自然のあらゆる力を操ることができる。」
グレン 「具体的には…?」
魔物 「森の創造、破壊や…過去から現在に至るまでに存在したあらゆる自然の子供達を呼び出すことができる。」
レイム 「……………。」
ルイン 「レイム殿…」
レイム 「大丈夫。…実はその石は、すでに悪党の手に渡っちまってるんだ。」
魔物 「…そうか。それは厄介なことになっているな。」
グレン 「悪用するとしたら、どういう方法があるんです?」
魔物 「先程も言ったように、魔獣を呼び出して使役すれば膨大な戦力になるだろう。」
グレン 「………………。」
魔物 「また、輝石自体がすさまじい量の魔力を持っている。大掛かりな儀式だろうと少人数で完遂できるようになる。」
全員 「………………。」
魔物 「落ち込んでいる暇はないぞ、勇者達よ。輝石を狙う悪党がいるのなら、何としてでも残りの2つを先に手に入れなければならないのだから。」
ルイン 「残りの2つの場所をご存知なのですか!?」
魔物 「…いや、残念ながら、私が正確な場所を知っているのはハート・オヴ・フォレストの在り処だけだ。だが…」
ルイン 「…何か手がかりが?」
魔物 「『凍った炎』と呼ばれる輝石が、どこかの神殿に安置されているらしい。」
レイム 「凍った…炎…」
魔物 「そして最後の1つは、名前も知らぬが…天にある古代文明の城にある、と聞いたことがある。」
グレン 「天にある城!? そんなとこ、どうやって行ったらいいんです!?」
魔物 「その城に行くための施設があるはずだ。古代文明の遺跡を探し、見つけ出すしかないな。」
グレン 「雲を掴むような話ですねぇ…」
ルイン 「だが、こうして手がかりが得られたんだ。雲といえど、いつかは掴めるはずだ。」
魔物 「その通りだ。…さて、これで私の知っていることはすべて伝えた。そろそろ時間のようだ。」
そう告げると、男は踵を返し、台座の横を通って階段を下り始めました。
ルイン 「待ってください!! あなたの名は!?」
魔物 「名乗ることは出来ない。私は輝石の暴走を止められず、自我を失った…名乗る資格もない者だ。」
全員 「………………。」
魔物 「さらばだ、輝石の勇者達よ。この世界のことを、頼んだぞ。」
男はそのまま階下へと姿を消して行きました。一行も後を追って下りて行きますが、階下にはもはや誰もおらず、ディセクレイション・エレメンタルが集めたのであろう、魔法のアイテムや財宝が散らばっているのみでした。
一行が外に出ると同時に、村はニオル・ドラから姿を消していきました。ディセクレイション・エレメンタルを打ち倒したことで、村から溢れ出していた亡霊達も姿を消し、町民達の歓喜の声が町中に響き渡りました。
こうして、今回の事件は、無事に幕を閉じました。そして一行は、2つ目の輝石…正邪の石を手中に収めたのでした。
グレン 「ようやく…2つ目ですね。」
レイム 「まったく、我ながら厄介なことに首突っ込んじまったもんだよ。」
ルイン 「だが、やらねばなるまい。我々は、輝石に選ばれたのだから。」
レイム 「まぁね。それに、取られた物を取り返して、返す物はキッチリ返さないと、アタイの怒りも納まらないからねぇ。」
ミュー 「がんばろう。」
ルイン 「ああ、そうだな。皆で力を合わせれば、残りの2つも必ず手に入れられる。」
レイム 「じゃ、今日のところはゆっくり休んで、明日はまた情報収集でもしようか。」
ルイン 「そうだな、そうするか。」
グレン 「それでは皆さん、おやすみなさい。」
ミュー 「おやすみ。」
グレン (よし、彼女達が眠ったら逃げるんだ! なるべく遠くへ!)
レイム 「あ、そうそう、グレン?」
グレン 「はっ、はいっ!?」
レイム 「また逃げたりしたらただじゃおかないからね?」
ルイン 「また逃げたりしたらただじゃ済まさないからな?」
ミュー 「また逃げたりしたらゴーモンだから…」
グレン 「はっ…はい…」
後にグレンは、「彼女達の笑顔はディセクレイション・エレメンタルの何十倍も怖かった。」と供述していました。