第15話  凌雲の彼方へ  前編




シボレスを経ってから数日、一行は北に200マイル程進み、グラン・マーチの首都であるフックヒルへと辿り着きました。人口はシボレスよりも若干多く、山間の街特有のどこか落ち着きのある雰囲気が、一行の緊張感を解きほぐしてくれました。

宿を取り、階下のレストランで山の幸に舌鼓を打っていると、2人の男達が話しかけてきました。










男 「お前達だな、数多の腹心と対立して輝石を集めている者達というのは?」


全員 「!?」





組織の連中に先回りされていたのかと思った一行に戦慄が走ります。しかし男はそんなこと気にも留めず、淡々と語り続けます。





ルイン 「何者だ、組織の者か?」


男 「俺の名前はマッド、こいつはラルスだ。安心しろ、組織の者でもなければ、今のところ敵でもない。今日はお前たちにいい話を持って来た。」


ラルス 「………………。」


レイム 「いい話…ねぇ。それじゃあ聞くだけ聞かせてもらおうかな?」


グレン 「その前に、そちらから何か代価の要求とかはないんですか?」


マッド 「いいや、そんなつもりはない。」


グレン 「…でしたら結構です。続けてください。」


マッド 「話というのは、お前達が探している輝石の在り処についての情報だ。」


グレン 「輝石…ですって?」


マッド 「そうだ。ここから北東に進んだ山間の中に遺跡がある。その遺跡は戦天城とアクセスできる数少ない城だ。」


ルイン 「戦天城…確か天空に浮かぶ要塞で、そこに輝石が眠っているという話だったな。」


レイム 「その遺跡から、戦天城とやらに向かうことができるんだね?」


マッド 「ああ、だが急いだ方がいいぞ。腹心どもはすでに他の城から戦天城へ行く準備をしているところだ。ぐずぐずしていると先を越される。」


レイム 「なるほどねぇ。……良ければ、こっちからも1つだけ聞かせてくれない?」


マッド 「ん? なんだ?」


レイム 「あんた達、なんでそんな情報をアタイ達に無償で渡すんだい?」


マッド 「………俺達には俺達の事情ってヤツがある。それをお前達に話すことは出来ない。」


レイム 「…そっか。変なこと聞いて悪かったね。」


マッド 「いや、安心した。俺達を微塵も疑わないようなやつらだったらどうしようかと思っていたところだ。」


レイム 「ハハッ、言うじゃないか!」


マッド 「最後に。もし遺跡に行くのなら十分気をつけろ。あの遺跡には手強いゴーレム達が大勢いる。」


ルイン 「ごーれむ……ってなんだ?」


ミュー 「ルイン…静かにしてて。」


ルイン 「うっ…はい…」


マッド 「その上、組織の幹部格にあたる剣士が周辺をうろついているとの情報もある。」


グレン (……どうかあの根暗そうな剣士じゃありませんように……)


マッド 「では幸運を祈る。お互い、生きていたらまた会おう。」










そう言って、彼らは店を出て行きました。この情報の真偽を調べる術は一行にはなく、彼らの言うとおり、この話を信じるしか道はありません。

翌朝、一行はマッド達から得た情報を頼りに、北東の山間の地を目指しました。探すこと数時間、雄大な山々の合間に身を隠すかのように、その城はひっそりと佇んでいました。長いこと風雨に曝され続けたせいか、外壁は所々崩れかけており、その隙間からは乾いた緑色の木々が芽吹いていました。





入り口まで近づいてみると、この城が想像よりも遥かに巨大だったことに気付きました。ミューが<捜索>をすると、入り口にカードリーダーのような装置がついていることに気付いたのですが、彼女達からしてみれば未知の装置です。ミューが<装置無力化>の判定を行い、なんとか解除。遺跡の中へと進んで行きます。

中に入って行くと、すぐにY字路に突き当たりました。と同時に、それぞれの通路の先にゴーレムが待機していました! ゴーレム達は一瞬眼部を光らせたかと思ったら、唸り声のような稼動音と共に身体を起こし、一行目掛けて接近してきました。

敵はアークバウンド・ワーカーが2体と、アークバウンド・ランサーが1体。この文明が栄えていた時代に、拠点の防衛等を主目的として造られたゴーレム達です。古代文明が滅びた今となっても、主なきこの城を守り続けている姿には同情の念すら覚えます。

しかしそんな甘っちょろい感情は戦闘開始と同時に吹っ飛びました。開幕一番、移動して一行の目の前にやってきたアークバウンド・ワーカー達は、手にしたスピアに電気エネルギーを収束させ、さながらライトニング・ボルトのように投擲してきたのです。効果はそれとまったく同じで、開幕時に2×2の隊列を取っていた一行は、2本のライトニング・ボルトによって全員が反応セーヴを強要されます。結果、身かわし能力を有しつつセーヴに成功したミューと、そもそも射線から外れていたアル以外は全員直撃の10d6をもらってしまいます。

グレンはお返しとばかりにアークバウンド・ワーカーが密集しているポイントにファイアー・ボールを発射します。呪文抵抗を抜ききれず、1体を巻き込み損ねてしまいますが、残る1体はセーヴに失敗して直撃コース。この手負いの敵を、レイムの治癒呪文を受けたルインが狙います。…が、硬い…案の定硬度によるダメージ減少を有していやがりました。

続くアークバウンド・ランサーの手番、敵の通常攻撃を受けたルインが何故か頑健セーヴを要求されます。結局セーヴには成功。原因は、電気を帯びた敵の攻撃を受けたことで身体が麻痺しかけたのです。セーヴ難易度は19だったため、ルインにとっては成功率90%のセーヴです。ですが、他の仲間が狙われれば即戦線離脱もありえます。これが通常攻撃に付随してくるんですからたまったもんじゃありません。余談ですが、この麻痺能力はアークバウンド・ワーカーの方にも備わっています。(セーヴ難易度は17。)

人造の種別特徴によってクリティカル、急所攻撃に完全耐性があるだけでなく、硬度によるダメージ減少と呪文抵抗…一行に効果的なダメージを与える手段はありません。さらには、麻痺能力とショッキング能力が付随した通常攻撃に、ライトニング・ボルト相当の長射程範囲攻撃…連中、最初にエンカウントしたザコとは思えない無双っぷりを発揮しています。

次のラウンド、アークバウンド・ワーカーの攻撃を受けたミューがなんとセーヴに失敗…麻痺状態になった彼女を、もう1体のアークバウンド・ワーカーが全ラウンドアクション消費でとどめの一撃を宣言…ナイトメア級の連続攻撃によって、ダンジョンの入り口で死者を出すハメになってしまいました。

どうやったってミュー抜きでの探索は不可能。なので出し惜しみせずにリソース全部吐き出す覚悟で反撃に出ました。グレンのファイアー・ボールとレイムのアイス・ストームによってアークバウンド・ワーカーを1体破壊。ルインは別のアークバウンド・ワーカーに全力攻撃を叩き込みますが、仕留めきれず、返しでワーカーとランサーの挟撃をもらってしまいます。ランサーの攻撃は《捉え難き標的》の《変位防御》によってワーカーに命中させたのですが、ワーカーの攻撃はモロに喰らってしまいます。しかもここで恒例の頑健セーヴ出目1…

その後、アルはダメージこそ与えられないものの、追加攻撃の足払いで敵を陥れます。ランサーはともかく、ワーカーは2足歩行+中型なので、アルにも十分勝算があるのです。結果、足払いは成功。しかしグレンレイムの呪文乱打をもってしてもランサーを落とすことはできず、続くランサーの手番でルインまでもがこの世を去ってしまいます。

前衛2人の死亡により、急遽アルを前衛に据えて粘り続ける一行。ワーカーを足払いによって封殺することで、火力はすべてランサーの方に向けます。数ラウンド後に抵抗をブチ抜いたグレンのスコーチング・レイが、ランサーの重要機関を撃ち抜き、残りはワーカー1体。アルは必死に頑健セーヴを成功させながらワーカーを抑え、その間惜しみなく発射され続けたグレンの力術が数ラウンド後にワーカーを鉄屑へと変えました。こうして初戦は終了。いきなり2人も死者を出してしまうという、敗北と同意義な勝利でした。





急いで街に引き返し、ルインミューの蘇生を済ませる一行。レベルが下がったらいよいよ勝てる気しなくなるので、DMに泣きを入れてトゥルー・リザレクションの発射許可を得ます。全員の所持金をかき集め、なんとか2発分の代金を工面して、事なきを得ます。

その後は作戦会議を始めました。とりあえず敵2体からの、攻撃→麻痺→とどめの一撃の連続攻撃は何が何でも回避しなきゃいけません。一行が出した結論は、全員が「ポーション・オヴ・リムーヴ・パラリシス」を購入し、イニシアチブ・カウントを遅らせてなるべく敵と敵の間に行動するようにすることでした。あとは全員がなるべく離れず、すぐに仲間の口元にポーションを運べる体勢を整えること。卑屈ですがこれぐらいしか思いつきません。また、人造相手ではミューが何もできないので、足止め袋を大量に買い込んでおきました。





気を取り直して翌日。一行はようやく遺跡の奥を目指して探索を開始します。昨日戦場となったY字路までやってきたところで相談し、左手側の通路を進んで行くと、ガラス張りの円柱の部屋のようなものを発見。ぶっちゃけて言うとこれはエレベーターなんですけど、一行にはそんなもんわかりっこありません。ミューが操作してみますが、「エレベーターキーがありません。」とか言われる始末。えれべーたーきーってなんですか?

無視してY字路まで戻り、今度は右手側の方に進んで行くと…いるわいるわ、アークバウンド・ワーカーとアークバウンド・ランサーがウヨウヨと出てきました。しかしアークバウンド・ワーカーは、足止め袋とアルの足払いでほぼ完封。なんで昨日こいつらに殺されたのかわからないぐらいあっさりと突破できました。アークバウンド・ランサーはルイングレンでゴリ押し。途中ルインがセーヴをミスったりしましたが、即座にミューがポーションを流し込んで事なきを得ます。





そんな調子で、途中に換金用のアイテムをいくつか回収しながら、順調に奥へと進んで行きます。途中、「ランクC以上のカードキーを挿入してください。」とか言われて門前払いを喰らった部屋が2部屋ありましたが、「かーどきーってなんですか?」の状態だったので無視することに。

1Fの最奥は会議室になっていました。操作盤がいくつかあり、そのうちの1つを操作したら壁面の巨大スクリーンに、今まで戦ってきたゴーレム達の図面のようなものが映し出されました。その中には、今まで見たこともない…と言うか、今後もあまりお会いしたくないような方のお姿もありました。
室内を<捜索>すると、1枚のカードを発見。どうやらこれがランクCのカードキーのようです。裏面には何やら擦れかかった文字で、「104368」と書かれていました。

これを使って残りの2部屋を調べてみることにした一行は、一旦引き返すことに。





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