第15話  凌雲の彼方へ  後編




3階にやってきた一行は、エレベーターの正面にある超巨大な鉄扉の前に辿り着きました。「空の部屋」と名付けらたこの部屋の入り口は硬く閉ざされており、どうやっても開けることができませんでした。ここは無視して他の部屋へ。





このフロアには空の部屋以外に4部屋あり、そのいずれもが、かつてこの遺跡に住み込んでいた者達の私室となっていました。

最初に入った部屋では、机の上にアミュレット・オヴ・ナチュラル・アーマー+3とリング・オヴ・プロテクション+3が置かれているのを発見。また、一緒に置手紙も残されており、「私は人間の生存を信じる」と書かれていました。

そして次の部屋には、神官のような僧服に身を包んだ1人のゴーストが! …しかしこのゴーストに敵意は無く、むしろ一行の姿を確認して慈愛溢れる笑みを浮かべてきました。

他の2部屋にも、彼のように成仏できずにこの場に留まり続けている霊がいました。彼らは、ランクAのカードキーと共に、かつて自分達が使っていた高価なマジックアイテムを一行に託し、様々なことを教えてくれました。

彼らからの情報によって、戦天城へ行くには空の部屋の転送陣を使用しなければいけないこと。空の部屋を開くには、先程階下のディスプレイで見たように、他の部屋でエネルギーを供給してやらないといけないということ。太陽の部屋と月の部屋に入るためには、光の拳(フィスト・オヴ・ライト)という装置が必要なこと。そしてそれは光の部屋にあるということがわかりました。

その他に、前回の地下図書館で入手したオーブにも保管されていない、過去の大戦争の成り行きと結末も教えてくれました。以下にその詳細を記しておきます。










人類はかつて、他の世界から来た来訪者達よりもたらされた異界の技術を用いて、人類史上類を見ない発展を遂げました。しかし、その発展は多くの犠牲の上に成り立っていたもので、その中でもっとも大きな犠牲となったものが"自然"でした。

自然は怒り、人類に罰を与えようとしました。当時の人類の文明が大きく依存していた、"魔法"に強力な耐性を持つ魔獣を処罰者として仕向けたのです。

この世界規模の争いは、下層次元界のデーモン達の知ることとなり、彼等の介入によって人類も自然も、共に大きな打撃を受けることになったのでした。

追い詰められた人類は、最後には自らの持つ技術を持て余し、自爆…しかし、結果として、人類は壊滅寸前の打撃を受けながらもデーモン達を撃退しました。そして数を大きく減らし、文明レベルを大きく衰退させながらも、この世界を守り抜いた人類を見た自然は、我々に許しを与えたのでした。










彼が語ってくれたこの話が、今から何千年も昔に起きた戦争の結末でした。人類はかつて、大自然だけでなくデーモン達までも敵に回していたのです。そんな絶望的な状況に置かれても、最後まで決して諦めずに戦い抜いた彼らのおかげで、今自分達がこうして生きているのだと気付いた時、一行の胸中は、言葉にできないぐらいの感謝の気持ちで満たされていました。

彼らが命を賭して守り抜いたこの世界を、組織の連中に好きにさせるわけにはいきません。何としても戦天城の輝石を手に入れることを固く誓い、一行は再び2階へと向かいました。





託されたカードキーで太陽の部屋に入ると、部屋の中央に台座があり、以下のような片手だけの篭手が安置されていました。










グレンがアイデンティファイを唱えてみると、この篭手には着用者の攻撃を強化する能力が備わっており、近接or遠隔攻撃に1d6ポイントの[光]による追加ダメージを与えてくれるのだそうです。さらに1日に1回、光を増幅させて5d6の[光]ダメージを与えられるのだとか。TSUEEEEEEEE!! 早速ルインに装備させました。





入り口で門前払いを受けていた月の部屋と太陽の部屋にも入れるようになりました。まずは月の部屋から行ってみることに。フィスト・オヴ・ライトをかざして巨大な扉を開けると、そこには1体のゴーレムが待ち構えていました。

敵の名はルナ・アヴェンジャー。この部屋への侵入者を駆逐するために配備された番人です。

敵が大型+人造ということで、ミューとアルは効果的な行動が取れません。ルインの援護も重要ではありますが、それよりもグレンレイムのカバーに立つことに。ルインは単身で敵に斬りかかります。ダメージ減少10/−を持つルナ・アヴェンジャーの装甲は強固ですが、フィスト・オヴ・ライトの光ダメージがその差を埋めます。実はこいつ、火と冷気と電気に抵抗10を持っており、ハンパなエネルギーダメージじゃ傷一つつかないのですが…光ダメージという未知のエネルギーダメージはバンバンこれをブチ抜いてくれます。比類なき頼もしさ。

敵の手番、部屋中に「5」というカウントが響き渡り、一行は「???」 その後敵は擬似呪文能力でシャウトを発動。グレンだけが頑健セーヴに失敗し、2d6ラウンド(ロールの結果5ラウンド)の間、聴覚喪失状態になってしまいました。そのグレンは失敗を避けるため、ワンドからマジック・ミサイルを発射しますが、これは呪文抵抗を抜けられず霧散。

こちらのダメージソースはルインの全力攻撃のみ…敵のACはかなり高かったんですが、ブーツ・オヴ・スピードでヘイスト状態になっているため、毎ラウンド2〜3発は当てられました。しかし敵も、ダメージ減少以外に高速治癒5を持っているため、なかなか戦闘は進みません。そんな中、敵の手番と同時にくるカウントは徐々に進行していきます。カウント4でルインに爪で全力攻撃をし、その後高速化したヴァンピリック・タッチを。カウント3では攻撃をした後、飛行状態となって天井付近へ。この段階でグレンが失敗を恐れずにルインにフライを投射。戦場は空中へと移ります。が、敵のカウント2の行動はホールド・モンスター。ルインがセーヴに失敗し、地上へ落下してダメージを負います。

レイムが治癒呪文を唱え、ルインは全ラウンドアクションを使って再セーヴ。ここでセーヴに成功しますが、もうアクションが残っていないため、剣が拾えず。そして敵の手番、「1」というカウントと同時に、敵の両腕がバチバチと音を立てながら放電を開始します。焦ったグレンがこの日最後のディスインテグレイトを放ちますが、これが聴覚喪失による失敗率、呪文抵抗共にブチ抜き、大ダメージを与えます!

起死回生の一撃でしたが、残念ながら敵を仕留めることはできませんでした。そして敵の手番、カウント「0」と同時にチェイン・ライトニングが放たれます。ルインがセーヴに失敗して、18d6の大ダメージ! さらに副次電撃が他のPC達を襲います。結局、無傷で済んだのはミューのみでした。

しかし、グレンのディスインテグレイトはしっかりと効いており、ルナ・アヴェンジャーは次のラウンドにルインの攻撃を受けてスクラップと化しました。





改めて部屋を調べてみると、奥には台座があり、巨大な宝石のような装置が置かれていました。また、部屋の奥に小さな扉があり、その向こうには制御室のような部屋がありました。「操作用」と書かれた操作盤には、手形のようなくぼみとディスプレイがあり、「汝が手の内にある力と我が力の合作である、地への使者の名は?」という文字が浮かび上がっていました。

パスワードの入力欄は9マス。一行は知恵を出し合いながら考え…結果、フィスト・オヴ・ライトを手形のくぼみにはめ込み、「MOONLIGHT」と入力。すると、大きな稼動音が聞こえ始め、先程の部屋に置かれていた巨石が強い光を放ち始めました。これで月の部屋からのエネルギー供給は完了したようです。





この時点で、一行のリソースはかなりギリギリ。太陽の部屋にも、さっきみたいなとんでもないのがいたら確実に全滅するので、大事を取って一度帰還することに。





翌日、一行は再び2階の太陽の部屋へ。昨日の月の部屋と同じようにフィスト・オヴ・ライトで扉を開け、案の定待ち構えていたゴーレムと戦うことに。

太陽の部屋の守護者は、サンクラッシャー

いきなりグレンがディスインテグレイトを発射し、ルインがフィスト・オヴ・ライトの光力を5d6にして攻撃。開幕と同時に2人で大ダメージを叩き出します。これに対してサンクラッシャーは高速化したファイアー・ボールを放ち、ルインに全力攻撃。踏みつけ攻撃が画像のとおり4発も飛んできて、こちらもいきなり大ピンチ。

回復のために後退したルインに代わり、ミューが防御的戦闘をしながら攻撃を引きつけます。次のラウンドにはルインも復帰しますが、ルナ・アヴェンジャーよりもAC、ダメージ減少値共に高いサンクラッシャー相手には苦戦を強いられます。グレンの呪文もその後はなかなか抵抗を破れず、そうこうしているうちにカウントは「3」、敵の行動はオーダーズ・ラス。何気に半数が混沌属性のこのパーティ。グレンミューも出目が悪くセーヴに失敗、幻惑状態に。

あっと言う間に再び敵の手番、カウント「2」での行動は手近な敵へのフレイム・ストライク…しかしルインミューもセーヴに成功。そして返しのルイン の全力攻撃&グレンのマジック・ミサイル+高速化マジック・ミサイルによってサンクラッシャーは撃沈。DMの話によると、こいつの0カウントはディレイド・ブラスト・ファイアー・ボールだったそうな。





この部屋にも巨石の装置と制御室へと続く扉がありました。月の部屋との違いは、パスワードの入力欄が1文字分少なかった点ですが、MOONとSUNの違いです。こちらも難なく装置を起動させ、ついに空の部屋へのエネルギーを供給をすべて終わらせました。





そしていよいよ空の部屋へ。巨大な両開きの鉄扉の向こう側にいたのは、同じく巨大サイズのゴーレムでした。ミューなんかしばらく急所攻撃してないんで、人造ばっかでものすごく不満そうです。

この遺跡の最後のボスの名はソラリオン。一応この部屋の守護者という扱いですが、何かを守るよりも、外に出て敵兵を殲滅する方がずっと得意そうなゴーレムです。

戦う以外の選択肢が無いので、試しにルインが突っ込んでみますが、ダメージが入っているのかどうかよくわかりません。そして敵は口から幅10フィートのレーザーブレスを照射! 13d6の光ダメージがミューとアル以外の3人を焼き焦がします。レイムはすかさずマス・キュア・ライト・ウーンズを発動。1d8ですが、術者レベル分と《治癒呪文増幅》の分で稼いだ固定値が多く、かなりの量のhpを治癒します。そしてグレンは、状況不利と見るや、ためらわずにディスインテグレイトを発射! …したのですが、呪文抵抗を抜けられず立ち消えてしまいます。

ルインが全力攻撃で幾ばくかのダメージを与えますが、この巨体を押し留めることはできず、むしろ返しの全力攻撃で50点以上のダメージを負ってしまいます。レイムは再びマス・キュア・ライト・ウーンズを発動し、これでルイン以外のhpを全快させることに成功します。

そして敵の手番、我々の卓内で後世にまで語り継がれる大事件が発生します。





皆さんはご存知でしょうか? ファイアー・ボール等の強力な呪文が可燃物を発火させたり、融点の低い金属を溶かすなどして、物品にまでダメージを及ぼすことを。そして皆さんは適用しているでしょうか? 誰も得をしない不毛とも言えるようなこのルールを…





ソラリオンはPC達の真上に移動し、自身に内包されたエネルギーの一部を開放。半径30フィートに18d6の大爆発を巻き起こしたのです。これによって、DMが今回戯れに採用した上記のルールが、PC達の装備しているアイテム(主にルインの装備品)を大量に消し飛ばしていったのです。

まさかとは思いますが、もしこれを連発されたら…次のラウンドで装備と共に命までもが確実に消滅します。慌てたグレンは、本日ラストのディスインテグレイトをここで発射! そしてこの破壊光線がソラリオンの呪文抵抗をブチ抜いて100点超の大ダメージを叩き出し、巨大な殲滅兵器の姿を塵へと変えていきました。





慌てて町に戻った一行は、ひたすら金をかき集め、ルインの装備品の補填を行いました。そしてリソースを回復し、翌日、再び空の部屋へ。

空の部屋の魔法陣は、エネルギーが供給されているせいか、淡く明滅していました。互いの顔を見合わせ、コクリと頷いた後、意を決した一行は魔法陣の上に足を踏み出しました。





微かな浮遊感が身体から抜け、一行が目を開くと、そこは見知らぬ建物の中でした。無機質に感じられる壁には、面積の小さい覗き窓のようなものがありました。何の気なしにそこを覗き込んだグレンが、が思わず息を呑みます。










グレン 「…ッ!?」


レイム 「ん? どうかしたのかい?」


グレン 「こ、ここ、ほ、本当に、空の…」


レイム 「え!? ちょっとどきなっ!!」





レイムの視界に飛び込んできたのは、一面の夜空と、想像を絶する程に巨大な建造物。そして、遥か下方に見える無数の雲でした。





レイム 「はは…まいったね、覚悟しちゃいたけど、未だに信じらんないよ。」


グレン 「じゃ、じゃあ、やっぱりここが…その戦天城とかいう…?」


レイム 「見たところ、間違いなさそうだねぇ。」


ルイン 「ようやくここまで辿り着いた。あとは、組織の連中よりも先に輝石を手に入れるのみだな。」


レイム 「ま、何とかなるさ。いつもみたいにね。」


グレン 「ふ、ふふふ、ははは! 当然ですよ! 私がいるんです、皆さん大船に乗ったつもりでいてください!」


ミュー 「……………………。」


ルイン 「おい、ミュー。さっきから様子がおかしいぞ。」


ミュー 「……やっぱり……」


ルイン 「もしかして、どこか具合でも悪いのか?」


ミュー 「……ねぇ…ルイン…」


ルイン 「ん?」


ミュー 「…ミュー…ここのこと知ってる……ここにいたことがある……」


ルイン 「なっ、何だとっ!?」










ついに凌雲の彼方…戦天城へと辿り着いた一行。4つ目の輝石を巡る戦いを前に、皆が覚悟を固める中…ミューだけが、記憶の奔流に心を乱されていました。





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