第16話 天空の巨城 中編
ついに中枢ブロックへと辿り着いた一行は、急いで奥へと進みます。L字型の角を曲がったところで、巨大な鉄扉にぶつかりました。地上の遺跡でソラリオンが出てきた時のことを思い出してしまいます。この先に輝石を守護する者が待ち構えていることが容易に想像できます。
それとは別に、鉄扉の手前の左側にもう1つドアがありました。その部屋の中には、多数の操作盤とモニターが壁面にズラッと並んでいました。しかし何よりも一際目を惹いたのは、暗い室内に佇む一人の男の姿でした。
髪の色は黒く、肌も浅黒いその男の肉体は筋骨隆々といった感じで、全身には無数の、あらゆる種類の傷がついています。男から感じられる威圧感は五本の牙など比較にならないほど強大で禍々しいものでした。
男 「ここまで辿り着いたということは、あの魔獣どもを全て撃破してきたということか…ならば貴様等が我らに対立する者だな?」
ルイン 「気を付けろ…かなりできるぞ。」
レイム 「ハハッ、あいつらと比べると、やっぱホンモノは違うねぇ。」
男(ガル) 「我が名はガル。エリスヌル・コンフィダントの携えし大剣にして、我らが武力を体現する者なり。汝らの名は?」
ルイン 「ルイン・ガーネット。貴様らの野望を打ち砕く者だ。」
ミュー 「ミュリエール。」
レイム 「レイム・シュアー。アウストの森の生き残りだよ。」
グレン 「グレン・クロウです。…まぁ、彼女達の付き添いみたいなもんです。」
ガル 「そうか。フッ、真の強者に出会えたことをエリスヌルに感謝せねばならぬな。」
ルイン 「貴様らなどに輝石は渡さん。即刻退いてもらうぞ。」
ガル 「そうはいかん。…間もなくゼッペス様がここに参られる。先に進めぬとわかった以上、何としてもここを死守せねばならん。」
レイム 「ゼッペスだって!? まさか、あいつがここにくるのか!!」
ガル 「そうだ。もっとも、ここで朽ち果てる貴様らに、ゼッペス様のお姿を垣間見る術はないがな。」
グレン 「果たしてそれはどうでしょうか?」
レイム 「困るねぇ! 勝手に人の未来を決めてもらっちゃあ!」
ガル 「よかろう。ならば試してみるがいい! 我が死の旋風で汝らを薙ぎ払ってやろう!」
ルイン 「やれるものならやってみろっ! ミュー!」
ミュー 「わかってる。いこう。」
輝石を目の前にして、幹部格との戦闘が始まりました。敵はウルファやシュリエックと同格の相手。一筋縄ではいかないでしょう。
部屋が20フィート四方とかなり狭く、敵とほとんど隣接した状態で戦闘が始まりました。イニシアチブで全員が先制したため、まずはグレンがスコーチング・レイと高速化したマジック・ミサイルを発射。スコーチング・レイが2発、呪文抵抗によって打ち消されてしまいますが、合計で30点ちかいダメージを与えます。
そしてミューは5フィートステップで敵の左側に回り込み、急所攻撃を連発。さらに続くルインがブーツ・オヴ・スピードを起動させてヘイスト状態に入り、同じく5フィートステップで右側に回り込むと、息をもつかせぬ4連撃を叩き込みます。うち2発がクリティカルしたことと、間にミューの追い討ちが入ったこともあり、この段階でガルはHPを完全に失い、ブッ倒れていました。位置取りが悪かったことと後手を踏んだことが災いし、死の旋風は文字通り、旋風のような早さで死んでいきました。
戦いが終わると、今まで何も映していなかったモニターが急に光を点し…
「よくぞ来た。輝石に選ばれし勇者達よ。」
「奥の扉はドックへと続いている。その扉を開放しよう。私はそこで、お前達の知らぬ新たなる真実を持って待っている。」
…という文字が表示されました。同時に、部屋の外の扉の方から重苦しい音が聞こえました。どうやらこれで、ロックが外れたようです。
巨大な扉を潜ったその先で一行を待ち構えていたものは…
そこには、圧倒的な質量を持つ巨大な竜が佇んでいました。ドラコ…彼女達は以前、地下図書館のオーブに記録されていたデータを見たことがありますが、肉眼で目視した時のその威圧感と重量感は、今までに見てきたどの敵をも遥かに凌駕していました。その巨大な機竜が、武器を構え始める彼女達に対して静かに口を開きました。
ドラコ 「よくぞ、よくぞ我が眼前に至った。勇者達よ。」
グレン 「しゃ、喋ったっ!」
ドラコ(ゴール) 「我が名はゴール・キヌス。かつて地の獣が暴走した時、奴を止めるために輝石を創造した5人のウィザードの一人だ。」
レイム 「輝石を…造った?」
グレン 「人造の竜が…ですか?」
ゴール 「私もかつては人間だった。元からこのような姿をしていたわけではない。」
ルイン 「ゴール殿…とおっしゃいましたね。では何故そのようなお姿を?」
ゴール 「私の元の肉体の寿命では、必ず再び起ると考えられていた世界の危機の際に、誰にも真実を伝えることができぬからだ。」
ミュー 「真実…」
ゴール 「私は輝石を造り上げた後、この戦天城に登ってドラコを修復し、己の魂をこれに移したのだ。」
グレン 「な、なるほど…」
ゴール 「さて、私のことはこれくらいにしておこう。時間がないうえに、伝えるべきこと山ほどあるからな。」
全員 「……………。」
ゴール 「まず、最初に伝えるべきことは…お前達の敵は、今ここを攻めてきている人間達だけではないということだ。」
ルイン 「なっ、あの組織以外にも敵がいるというのですか!?」
ゴール 「そうだ、デーモン達が動き始めている。奴等の目的はおよそ5千年前、地の獣によって古代文明と共に滅ぼされたデーモンの復活だ。」
グレン 「輝石を集めて、その力で主を蘇らせようとしているわけですか。」
ゴール 「そうだ。滅んだデーモンの名はオルクス。かつて多くのヴァンパイアやリッチを従えた、アンデットのデーモン・プリンスだ。」
レイム 「ハン、またずいぶんと大物みたいだねぇ。」
ゴール 「ゆめゆめ、気をつけることだ。どこに奴等の手の者がいるか分からぬ。」
ルイン 「心しておきます。」
ゴール 「次に伝えるべきことは、火と氷の神殿の場所だ。そこには『凍った炎』が安置されている。」
ミュー 「凍った炎?」
ゴール 「うむ、秩序と混沌を表す輝石だ。」
グレン 「その神殿も、この大陸にあるのですか?」
ゴール 「そうだ。ヴェルナの首都ミトリックから南下して目指すのがよかろう。ちょうどそのあたりに、小さな町と神殿があるはずだ。」
ミュー 「ミトリックってどこ?」
ルイン 「えーと…(地図を見て) 我々が直前まで滞在していたフックヒルからはそう離れていないな。北東の方角だ。」
グレン 「フォルズ川沿いにロリッジ丘陵を越えてすぐですね。」
レイム 「で、そこにもアンタのお仲間がいて、輝石を守ってくれているのかい?」
ゴール 「守護者はシルヴァー・ドラゴンのファニール。先の大戦で地の獣を止めるために我等に協力してくれたドラゴンだ。」
レイム 「おっと、今度は正真正銘のドラゴンかい。」
ゴール 「彼女は厳しい。恐らく輝石を受け取るには、彼女の試練を受けねばならないだろう。よく準備していくことだ。」
グレン 「き、厳しい…どういう方なんですか?」
ゴール 「人間の姿をとる時の外見は、若く美しい女性の姿だ。特徴は、腰まで伸びた長い銀髪だ。」
グレン 「まぁ、できる限りはやってみますよ。」
ゴール 「さて、次だ。…そろそろ私の輝石を渡しておこう。」
ゴールがそう言うと、透明な宝玉が、宙から一行のもとに降りてきました。透き通った輝石の中をよく見てみると、中心で無数の歯車がゆっくりと回っていました。
ゴール 「私の輝石は"ハート・オヴ・マシーン"。全ての輝石の元となった、ドラコの動力源を改造したものだ。」
ミュー 「これで3つ。」
レイム 「半分は押さえられたね。」
ゴール 「この輝石は、ハート・オヴ・フォレストと対をなす輝石でもある。」
グレン 「そういえば…この2つだけ他の輝石とは違うと思っていたんですよ。」
ルイン 「ど、どういうことだ?」
ゴール 「通常、単体で相反する性質を併せ持っている輝石の中で、この2つだけが例外として、2つで1つの対立の構図を表している。」
ルイン 「風塊…正邪…炎と氷…なるほど。」
グレン 「このことには何か理由があるんですか?」
ゴール 「この二つだけはどうしても一つにならなかったのだ。その点に関しては、古代文明の失敗を見れば納得も………」
ズガアァァァァァァァン!!
ゴールが喋り終わるのを待たずして、厳重にロックされていた入り口が爆発とともに消し飛びました。粉塵の向こう側から姿を現した人影は4つ。
がっちりした体格にローブを羽織った白髪の老人、その右側にはこちらに手を振るシュリエック、左側には鋭い視線で一行を睨みつけるウルファ。そしてその一歩後ろには、虚ろな目をした長い銀髪の女性が立っていました。
ルイン 「なっ、なんだ!?」
ゴール 「…………やはり時間が足りなかったか。」
老人 「やっと会えたのう。輝石に選ばれし者達よ。こうやって会うのは初めてじゃな。」
ルイン 「この声っ…!」
レイム 「ゼッペス!!」
老人(ゼッペス) 「いや、もしかしたらそちらのお嬢ちゃんには、アウストの森で会っていたかもしれんがの。」
ゴール 「また会ったな、ゼッペスよ。」
ゼッペス 「久しいのぉ、ゴールよ。共に輝石を創って、救世主ごっこをしたとき以来かのぅ?」
グレン 「え!? ど、どういうことなんですか!?」
ゴール 「やつはかつて、私達と共に世界の危機に立ち向かった男だ。」
レイム 「こいつが…世界を救った!?」
ゼッペス 「昔の話じゃよ。お嬢ちゃん達が生まれるよりずーっと昔のな。」
ルイン 「バカなっ! 自分の手で救った世界を何故混乱の渦に巻き込もうとするんだ!」
ゼッペス 「教えてやってもいいんじゃが、お嬢ちゃん達は理解してくれんじゃろなぁ。」
レイム 「どうせろくでもない理由に決まってるよ!!」
ゼッペス 「どうかのう? …では、改めて自己紹介といこうかの。わしの名はゼッペス。今まで散々おぬし等の邪魔をした者達の主じゃよ。」
グレン 「なるほど、皆さんが以前会ったとおっしゃっていたのは、この老人のことですか。」
ゼッペス 「わしの横にいる者達は知っとるじゃろ? 後ろにいるのは人形じゃから紹介はいらんし………おや、もう終わってしまったよ。」
レイム 「いつまでもふざけるんじゃないよ!」
レイムが素早くアイス・ストームを詠唱し、発動させます…が、降り注ぐ雹雨はすべて、ゼッペスの後ろにいた女性のディスペル・マジックによって立ち消えてしまいます。
レイム 「ッ!?」
ゴール 「おっ、お前はっ!」
グレン 「し、知ってる方ですか!?」
ゴール 「先程私が、『凍った炎』の番人をしているシルヴァー・ドラゴンについて語ったのは覚えているか?」
グレン 「えっと……腰まで伸びた長い銀髪…っ!! 」
レイム 「ハハッ、タチの悪い冗談だよ、まったく!」
ゼッペス 「さて、わしの用件は分かっておろう? お嬢ちゃん達が持っている輝石を全て渡してもらおうか。」
ルイン 「バカなことを言うな! 貴様らに渡さぬために、我々はここまでやってきたんだ!」
ゼッペス 「抵抗しても無駄なのは分かるじゃろ? ワシとの力量差が分からぬほど、お嬢ちゃん達は未熟ではあるまい?」
その時、一行の脳裏にゴールの声が響き渡ります。
ゴール (私がこの化け物を引きつけよう。お前達はドッグの奥にある扉を通って奥の部屋まで行け。そこに私の作った地上に通じる転送円がある。)
グレン (引きつけるって…大丈夫なんですか?)
ゴール (輝石のない私でも時間くらいは稼げるはずだ。そして今、戦天城に流れる魔力を完全に停止させた。もう数分でこの城は落ちる。)
ルイン (しかし、それではあなたが!)
ゴール (なぁに、私はもう充分すぎる程生きた。それに…最後にお前達にすべてを託すことができた。もはや悔いなどない。)
レイム 「……………ありがとう。」
ゴール (3つ数える、一気に走れ。いくぞ……1、2、3!!)
カウントと同時に走り出す一行。その瞬間、ゴールの口からゼッペス達めがけて閃光が放たれました。巨大な爆発が巻き起こり、徐々に視界が晴れてくると…その爆発の中心にはゼッペスとシュリエック。そして彼らを庇うようにして、魔力の障壁を展開した銀髪の女性が立っていました。
ゼッペス 「あのお嬢ちゃん達なら、ウルファ独りでも事足りるじゃろ。わしらはこいつを討ち取るぞ。」
シュリエック 「りょーかい♪」
女性 「…………………。」
ゼッペス 「さて、ゴールや。これで終わりにしようぞ?」
ゴール (世界を頼んだぞ…勇者達よ…)
再びゴールの口から閃光が放たれ、部屋中が白に染まり、次いで大きな振動と爆発音が響き渡りました。