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第01話 Open the box 前編
大陸南部の貿易都市、サウスゲート。周囲を砂漠に囲まれてはいるものの、海と緑に囲まれたその美しい町には多くの人と物資が集まります。そのサウスゲートへの道の最後の難関として、悠然とそびえたつ巨大な山、ガルム山。もっとも、今では街道が引かれ、比較的安全な登山道が確保されていますし、山の途中には小さな村もあります。
今回の事件はその平和な山村で起こります。そしてこの事件こそが、後にキャラクター達の人生を大きく変えるきっかけとなるのでした。
ガルム山の麓に開かれた旅人の宿…サウスゲートからやってきた冒険者が山越えの疲れを癒すために、また、これから山を越える冒険者が英気を養うために、その宿は格安の宿泊料で開放されていました。山を越えてサウスゲートを目指すPC達は、旅の途中で豪雨に見舞われ、止むを得ずこの宿で1泊していくことにするのでした。
最初に宿に訪れたのは、ウィザードのキャラクター、
ミッケル
。彼は秘術の力をもっとよく知り、誰よりも優れた魔法使いになることを目指して旅に出ました。
ミッケル
が宿の入り口に辿り着くと同時に、空はゴロゴロと不吉な音を立てながら徐々に曇っていきます。今日中にこれ以上進むのは無理と判断し、
ミッケル
が宿に入ると、扉の外で矢のような豪雨が降り始めました。室内は外と比べて驚くほどに暖かく、いくつものテーブルとカウンターが並んでおり、上り階段の脇には宿帳が広げられた簡素な机がありました。薄暗い室内には頼りないランプの灯りが揺らめいており、その奥では暖炉がパチパチと音を立てています。そしてその近くのテーブルで、中年の女性が腰を下ろして休んでいました。恐らくはこの宿のおかみさんでしょう。
ミッケル
「ふぅ…間一髪だったな! 事前に宿の場所を聞いておいてよかった!」
おかみ 「あらあらあら、こりゃまたずいぶんとひどい天気になったもんだねぇ!」
ミッケル
「なぁ! ここに泊めてくれ!」
おかみ 「もちろんだとも! ささ、宿帳に記入するからね。ぼうやのお名前は?」
ミッケル
「ボク、ミッケル・ダナン!」
おかみ 「……ミッケルくんね…はい、食事はいつにする?」
ミッケル
「…………今食べる!」
おかみ 「はいはい。うちのシチューは絶品だよ。たくさん食べていきな。」
ミッケル
「ありがとう!」
おかみはそう言って、一番奥の暖炉の前のテーブルを指差すと、宿の奥の厨房へと入っていきました。ちょうどその時、宿のドアの前には両親を探して旅をしている姉弟、
クレア
と
クリス
が立っていました。
クリス
「姉さん、ラッキーだったね、こんなところに宿があって!」
クレア
「……………。 (無言で自分の財布を見つめる)」
クリス
(……もしかして……宿代の心配をしているのかな?)
クレア
「……………。 (無言で自分の財布を見つめ続ける)」
クリス
「ね、姉さん。宿代なら、ボク手持ちにいくらか余裕があるよ。野宿できるようなお天気じゃないし、早く入ろう?」
クレア
「わかったわ、入りましょう。」
クリス
(……うん、
多分ボクのこのセリフをずっと待ってたんだろうな。
)
二人が中に入ると、ちょうどおかみが、
ミッケル
の前にシチューとパンと、水の入ったコップを並べたところでした。
おかみ 「おやおや! かわいそうに、早くこっちにお入りよ! あんたーっ! タオルを2枚持って来とくれーっ!」
おやじ 「
わかったーっ!
」
おかみ 「さ、あんた達も暖炉の前に行きな! 風邪引いちまうよ!」
クレア
「……………。」
クリス
「お、お邪魔します。」
おやじ 「災難だったな、ほれ。」
クレア
「どうも。」
クリス
「ありがとうございます。」
おかみ 「お腹空いてないかい? 今ならすぐ食事の準備ができるけど?」
ミッケル
「うまいぞ! このシチュー!」
クレア
「……………。 (無言で
クリス
を見つめ続ける)」
クリス
「わぁ、おいしそうなシチュー! いただきます! 姉さんも食べるでしょ?」
クレア
「いただきます。」
おかみ 「はいよ! ちょっと待ってておくれ!」
程なくして料理も揃い、3人で相席しての食事が始まりました。
ミッケル
は食事を終えると、暖炉の前に椅子を持って移動し、本を読み始めました。やがて無言の圧力に耐え切れなくなり、
クリス
が口を開くことに。
クリス
「ね、ねぇ! 君もサウスゲートに向かっているの?」
ミッケル
「………ん? ああ、そうだ!」
クリス
「やっぱりそうなんだ。…あ、ボクの名前はクリス。」
クレア
「……………。」
クリス
「…えーっと…それで、こっちがボクの姉さんでクレア。」
ミッケル
「そうか、ボクの名前はミッケルだ!」
クリス
「よろしくね、ミッケルくん。」
ミッケル
「うん、よろしく!」
すると今度は、最後のPCの
ヤラ
が宿へとやってきます。
ヤラ
も
クレア
達と同じく、行方不明となった父を探しながら旅を続けていました。雨風に晒されながら日の落ちた街道を歩いている途中で、目の前に明かりが灯った家屋を発見。迷わず中に入り、この悪天候を凌ぐことにしました。
おかみ 「おやまぁ、今日はあの人と二人っきりだと思っていたんだけど、ずいぶんと賑やかになったねぇ。」
ヤラ
「ここは宿屋ですか?」
おかみ 「そうだよ。ガルム山を通る旅人達のための宿屋さ。これで体を拭きな。」
ヤラ
「ありがとうございます。」
おやじ 「災難だったなぁ。山の天気は変わりやすいって言うが…でもま、山道に入る前でよかったな。」
おかみ 「あんた達はツイてるほうさね。今日は天気がよかったからね。今日中に山間の村まで行くんだって出てっちまった連中もいるのさ。」
ヤラ
「そうなんですか。」
おやじ 「あいつら、無事だといいんだがな…」
クリス
「こんばんわ、あなたもサウスゲートへ?」
ヤラ
「ああ、そうだ。」
ミッケル
「まぁ、この山の向こうはサウスゲートぐらいしかないからな!」
ヤラ
「お前達もサウスゲートに向かっているのか?」
クリス
「はい。あ、ボクの名前はクリスです。で、こっちが姉さんのクレアです。」
クレア
「……よろしく……。」
ミッケル
「ボクはミッケル! よろしくな!」
ヤラ
「私はヤラ・ヴォラ。よろしく。」
暖をとり、食事をしながら歓談していると、突然DMが<聞き耳>判定を要求。難易度の高い判定でしたが、出目が良く全員が成功。
突然宿の外で、けたたましい馬の嘶きが聞こえたかと思うと、扉の向こうにドサリと、何かが落ちる音が聞こえました。顔を見合わせる一行…やがて
ヤラ
が、次いで
クレア
と
ミッケル
が立ち上がり、入り口のドアの前へと移動します。
無言で顔を見合わせた後に、
ヤラ
がゆっくりとドアを開こうとすると、ドアが途中で何かに引っかかりました。視線を足元に移すと、そこには全身ずぶ濡れの状態で、苦痛に表情を歪めて呻いている青年がいました。
慌てて宿の中に引き入れ、暖炉の前へと連れて行く一行。青年の肩には矢弾が刺さっておりましたが、それは
クリス
が宿の治療道具を使用して<治療>。程なくして青年が目を覚ましました。
青年 「うっ……うぅ…」
ミッケル
「気が付いたぞ! 大丈夫か!?」
青年 「こ…ここは? ひょっとして、ガルム山の麓の宿屋ですか?」
ヤラ
「そうだ。」
クリス
「あ、動かないでください! 話も辛いなら結構ですから!」
青年 「い、いえ、大丈夫です。ありがとうございます。」
クレア
「大丈夫なら、何があったのか聞かせてちょうだい。」
青年 「はい。…僕は山間の村から馬を飛ばしてやってきました。村が盗賊に襲われてしまったんです。」
ミッケル
「盗賊だと!?」
青年 「やつらは突然現れて、武器を振り回して村人達を連れ去ろうとしていました。」
クレア
「"連れ去ろうとしていた"…? 金品の略奪が目当てではなかったということ?」
青年 「やつらの目的はわかりません。」
ヤラ
「その矢は逃げる時に撃たれたのか?」
青年 「はい。たまたま馬小屋で馬の世話をしていた僕は、馬を飛ばしてここまで来たんです。ここにはよく冒険者の方々が集まりますから。」
クリス
「そんなことが…」
青年 「お願いです…どうか、僕達の村を救ってください!」
ミッケル
「任せておけ! ボクはやるぞ!」
ヤラ
「私もだ。」
クレア
「やりましょう。」
クリス
「ボク達にも手伝わせてください!」
青年 「みなさん…ありがとうございます!」
こうして、連れ去られた村人達を助け出すことにした一行。改めて簡単な自己紹介を行い、戦力を確認しました。
ここで
ミッケル
と
クレア
が、明日以降に天気が穏やかになってから出発する方がいいか、今すぐ急いで出発した方がいいかで口論しだします。
クレア
もこの青年のように、自分が住んでいる村を襲撃された過去を持っていたため、今回の件で必要以上に感情移入して、自身の長所たる冷静さを失っていたのでしょう。結局は、夜の山道をこのような悪天候の中進むのはあまりにも危険…ということで、まずは気候が回復するのをじっくり休みながら待つことになりました。
幸いなことに翌日は、昨夜の天気が何かの冗談だったかのように、雲一つない青空が広がっていました。朝露に輝く木々の葉を横目に、一行は街道に沿って歩を進めて行きます。日が天高く昇った頃、山肌の向こう側に広大な砂漠が広がっているのが見えました。そしてその砂漠の向こうには、一行がこれから目指す町…砂と木々と海とに囲まれた貿易都市サウスゲートがあり、そのまた向こうには雄大な大海原が広がっていました。
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後編