第01話 Open the box 中編
夕方になってようやく、一行は山間の村へと到着しました。もともと静かな山村なのですが、この日はいつにも増して静かでした。何しろ、村人が一人もいないのですから。
クレアが<聞き耳>、<視認>、<捜索>と軽快に調査を進めます。周囲に物音や人影はありませんでした。家屋の壁には何か硬い塊がぶつかった様な跡がいくつもあり、その下にはスリングの弾が転がっていました。そして宿に逃げてきた青年の言うとおり、家屋の中の物品はそれほど荒らされた形跡はなく、完全に村人を連れ去ることのみを考えて行動していたようです。
周囲を調べるクレアの横で、ヤラは<生存>判定を行いました。すると、一行とは別の方から村に入ってきた足跡(3〜5人分)が、村の奥の一際大きな家屋(村長の家)へと続いていくのを発見! 昨夜の雨で足元がぬかるんでいたせいか、足跡がくっきりと残っていました。
全員で村長の家に<忍び足>で近づいて行くことにしたのですが、この<忍び足>判定はクレア以外はひどいものでした。
扉の前で態勢を整えた後、ミッケルが両開きの扉のうちの片方をメイジ・ハンドの呪文で開けました。すると扉の向こうにはスリングを構えた盗賊の姿が! 一行の<忍び足>が悪かっただけでなく、盗賊達の<聞き耳>もよかったようです。しかしその盗賊も、扉の前にいるはずの敵に狙いを定めていたため、慌てて遠くのヤラへと狙いを定めることになりました。ペナルティを受けての不意打ち攻撃はハズレ…一行はかろうじて無傷のまま戦闘を開始することができました。
とはいうものの、未だ敵が1人しか見えないため、迂闊に中へと踏み込めません。そこで先手を取ったクレアが、覚悟を決めて中へ突入し、敵の配置と人数を把握するこちにしたのですが…1歩踏み込んだところで扉の真横に隠れていた盗賊にクラブで攻撃されてしまいます。6点のダメージを受けて残りhpは1…しかし、敵の位置を把握することはできました。扉の両脇にクラブを構えた盗賊が2人と、扉の直線状にスリングを構えた盗賊が2人の計4人でした。この段階で移動距離がまだ半分残っていたため、家屋には入らずに外に戻り、フリーアクションで中の様子を手短に伝えます。その後標準アクションを使用してスリープを詠唱。
(※)スリープの詠唱には本来1ラウンドかかりますが、参加者全員がそのことを忘れており、このセッション中に発動されたスリープはすべて発動時間が1標準アクションとなっております。今後はこのようなミスが起こらぬよう、参加者一同、各項目の確認を徹底してまいります。今回はご理解、ご容赦いただけますよう、宜しくお願い申し上げます。
スリープの爆発地点にいたのはクラブを構えた盗賊2人。意志セーヴに失敗し、その場に倒れこんで睡眠状態に。クリスは大急ぎでクレアのもとに駆け寄ってキュア・ライト・ウーンズ。ミッケルはヤラにエンラージ・パースンの呪文を投射し、巨大化したヤラは激怒した後、扉を潜り抜けて敵陣の只中へ。その間、敵はスリングを構えていた2名が眠った2名を起こしていました。
最初に起き上がろうとした盗賊はヤラのグレートアックスにナデナデされて肉塊と化しました。3d6+10点のダメージなんて1LVキャラクターのそれじゃありません。気絶通り越して一気に他界してしまいます。
もう一人の盗賊のクラブと、残り2人のスリングはすべてハズレ。クリスも室内に飛び込んで盗賊の1人を気絶させ、ヤラがもう一人の盗賊を圧殺したところで、クレアが投降を勧告。独り残された盗賊には、これを断る術などありませんでした。
こうして戦闘は終了。気絶した盗賊の応急手当を施した後、生きている盗賊と背中合わせにロープで縛り、尋問タイム。途中に<はったり>判定なども織り交ぜながら、こちらの質問にはすべて正直に答えるように要求。盗賊は命には代えられないといった様子で、渋々と口を開きました。
まずこの盗賊達の目的は、村人を殺さずに連れ去ること。どうやら盗賊達のボスが何者かから依頼を受けており、その依頼の内容が、「なるべく多くの人間を拉致し、ガルム山の指定のポイントに連れて来い。そうすれば5日後に一人当たり金貨50枚で買い取る。」といったもののようです。一方、ここにいた4人の盗賊達は、ボスが金品を一切強奪しなかったことを思い出し、見張りをサボって物色にやってきたただの欲張りさん。そこでこんな目に遭ってるんですから「ザマァwww」としか言いようがありません。
盗賊達は、街道から外れたところにある林を抜け、岩肌に沿って進んだ先にある洞穴に潜伏しているようです。洞穴は大小2つあり、小さな方には村人達を閉じ込め、大きな方は自分達の居住用として使っているようです。
村から洞穴に向かうまでのルートの要所には、交代制で見張りを立たせているとのこと。いずれも戦闘が起こった際には有利に立ち回れるようなポイントを抑えているらしく、救出はずいぶんと難航しそうです。
そして、村人達を依頼人に引き渡すのは明後日の朝。今夜はもう日も落ちてしまいましたし、一行も途中の山道で随分と疲労してしまったため、これ以上の行動は不可能…ということは、明日1日で村人達を救出しなくてはなりません。
盗賊達は、今回金で雇われた者も含めると30人ちかくいるらしく、かなりの連戦が予想されます。リソースを小出しにして、温存に温存を重ねなければ、村人達を救出することはできません。一行の間に重苦しい緊張感が漂います。
聞き出せる情報をあらかた聞いたところで、盗賊達を縛ったまま納屋に放り込み、一行は食事を取ることに。人の家のものを勝手に食べるのには抵抗がありましたが、状況が状況なので仕方ありません。事後承諾で済ませることにしました。
そしてゆっくりと休息を取った一行は、まだ日も昇りきらぬうちに村を出発し、街道に沿って進み始めました。そして、捕獲した盗賊から聞き出したポイントで街道を外れ、雑木林の中へ。
クレアが<聞き耳>、<視認>等を行いながら進んで行くと、大樹の下で2人の盗賊が何やら雑談をしていました。
不意打ちラウンドでクレアがスリープを発動。盗賊達は意思セーヴに失敗し、その場に昏倒。戦闘は終了…したかに思えたのですが、気を緩めたクレアとクリスめがけて何者かが攻撃をしてきました! 慌てて周囲を探ると、少し離れた2本の樹の上にスリングを構えた盗賊達を発見!
ヤラとクレアは、スリープで睡眠状態の盗賊達に隣接、次のラウンドでとどめの一撃を宣言する態勢に入ります。一方ミッケルは、ライト・クロスボウ
で樹上の射手を狙いますが、命中するも一撃では仕留められず。クリスはバックラーを構えてミッケルのカバーに入ります。
次のラウンドでとどめの一撃が宣言され、睡眠状態だった盗賊達は永眠しました。一方、樹上のスリング部隊もミッケルががんばって1体仕留めます。そして、気絶と同時に樹から滑り落ちたこの盗賊のスリングをクレアが回収し、ミッケル2人で協力してもう1体もやっつけました。
この戦闘で必要以上のダメージを負うことになり、全員を治療した結果、クリスの残りの信仰呪文はキュア・ライト・ウーンズとキュア・マイナー・ウーンズが1発ずつ。かなーりジリ貧です。
しばらく進んで林を抜けると、岩場のY字路に到着。クレアの偵察の結果、左手は山肌に沿って進むかたちになり、しばらく行くとトンネルになっており、そこには2〜3人の盗賊がいるようです。反対に右手側は、崖に沿って進むかたちになり、しばらく行くと急斜面の上り坂になっており、坂の上に少数人の盗賊がいるようです。
一行は相談した結果、左手側のトンネルルートを進むことに。<隠れ身>+<忍び足>でゆっくりと近づき、クレアがスリープを投射! …しかし敵は全員意思セーヴに成功してしまいました。クレアは急いで後衛に詰めていたパーティと合流し、ミッケルのエンラージ・パースンで巨大化したヤラが突入。しかし出目が悪く、盗賊達にいいようにあしらわれて絶対絶命です。
ヤラの真後ろでクリスが最後のキュア・ライト・ウーンズを唱えて傷を癒し、クレアはデイズで敵のアクションを奪って援護をします。最後の1体が予想以上の粘りを見せますが、数ラウンド後にヤラがグレートアックスで両断しました。
この段階で一行のリソースはほぼ空っぽ。しかし、人質となっている村人達の受け渡しが明朝となっている以上、ここで帰ってはすべてが終わってしまいます。どうしようもなくなった時は潔く撤退することを全員で約束し、ギリギリまで奥へ進むことに。
トンネルを潜ってしばらく進むと、道は再び二手に分かれました。しかしそのうちの一方は先程のY字路の右手側(崖+急斜面ルート)に繋がっており、ちょうど坂の上で雑談している2人の盗賊の後姿が見えました。
無視してもよかったのですが、仮に村人達を救出できたとしたら、再びこのルートを通らなければいけません。その時、60人もの人間の足音をごまかす術はさすがにありません。ということで、今のうちに潰しておくことに。戦うか無視するか結構悩んだんですが、クレアのスリープ1発で、敵は一行に気付くこともなく他界しました。
山肌沿いに進んでいくと、100フィート程離れたところに盗賊が2人立っており、その近くに小さな洞穴があるのを発見。おそらくあの中に村人達が閉じ込められているに違いありません。
しかし、村で捕まえた盗賊の情報によれば、その近くにもう1つ洞穴があり、そこが盗賊達のアジト(仮)になっているはずです。まともに戦いを挑んでは、すぐに敵の仲間が駆けつけて来てしまい、確実に失敗してしまいます。
リソースもほとんど尽きてしまった一行が相談の末に導き出した結論は、囮作戦でした。鎧を脱ぎ、胸元をはだけさせたクレアが少し離れたところで跪き、助けを求めます。見張りに立っている盗賊達は、欲に目が眩み、自分達だけで近づいてくることでしょう。そこを一気にねじ伏せる…といった計画。クリスは二つの理由で反対しますが、他に方法もなく、何よりクレア本人がそこそこやる気だったため、仕方なく首を縦に振りました。
そしてクレアの<はったり>判定は出目20! ものすごく色っぽい艶技が目の前で展開されました。
クレア 「誰か! 誰か助けてぇぇぇっ!」
盗賊A 「ん? なんだ!? 誰だ!?」
盗賊B 「おい、あそこ! 女だ!」
盗賊A 「あいつら! 俺達に黙って上玉連れ出して遊んでやがったな!」
盗賊B 「おい、俺達も行こうぜ!」
仲間の盗賊達がお楽しみの最中とでも思っているのでしょう。それに混ざるべく、鼻息を荒くしてこちらへと近づいてくる盗賊達。下衆な笑い方が妙に堂に入っています。
クリス 「ね、姉さん…(指の隙間からしっかり見てる)」
ミッケル 「あいつら! 男としてだけじゃなく、それ以前に人として最低だ!」
ヤラ 「…………………。」
クリス 「…? ヤラさん、どうしたんですか?」
ヤラ 「クレアの役を私がやっていたらどうなっていたかな?」
クリス 「え? さ、さぁ…どうでしょう?」
クレア 「あっ! いやぁっ! 来ないでぇっ!」
盗賊A 「ひひひ、そう怖がるなよぉ。」
盗賊B 「俺達は優しくしてやるぞ? ほら、こっちにおいで。」
目の前から逃げ出したクレアを追って、岩陰に顔を出した瞬間、盗賊達の表情は凍りつきました。そりゃあ曲がり角を曲がったら目の前にいたのは美女ではなく、グレートアックスを振りかざした筋力19のハーフ・オークなんですから無理もありません。
1体はヤラの攻撃で即撃沈。もう1体はデイズでアクションを奪われ、そのまま袋叩きに合って豪沈。最低な連中なだけあってロクなやられ方じゃありませんでした。
その後、装備を整えたクレアは単身<隠れ身>と<忍び足>の判定を行って洞穴の中へ。様子を探ってみたところ、中に見張りはいないようでした。すぐに名乗り出て、歓喜に満ち溢れる村人達を静かにさせると、女子供、老人を優先して洞穴の外へ移動させました。最後に男性を連れ出し、全員で村へと移動。厳しいアタックでしたが、何とか引き渡しまでに村人達を救出することが出来ました!
村人達 「いやったァァァーッ!! 自由だァァァーッ!!」
村長 「どなたか存じませぬが、本当にどうもありがとうございました。あなた方は我々全員の命の恩人でございます。」
ミッケル 「まぁ気にするな!」
クリス 「そうですよ、ボク達は当然のことをしたまでですから。」
ヤラ 「助けられてよかった。」
クレア 「残念だけど、喜ぶにはまだ早いわ。」
村人A 「…えっ?」
クレア 「あなた達が逃げ出したことなんてすぐにバレるわ。」
ミッケル 「そうだな。連中きっと、またこの村までやってくるぞ。」
村人B 「そんな! 俺達いったいどうすれば!」
ヤラ 「任せておいてください。私達が何とかしますから。」
クリス 「ここまで来れたんです。みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられるはずです!」
ミッケル 「中途半端にして立ち去るわけにもいかないしな。」
クレア 「最後までやりましょう。」
村長 「おお、何と頼もしい…本当にありがとうございます!」
牧師 「皆様、少しよろしいでしょうか?」
村外れのさびれた教会から中年の牧師が、細いタクトのような棒を持って現れました。余談ですが、これはワンド・オヴ・キュア・ライト・ウーンズ(残チャージ数=13)で、村に到着した段階で行った<捜索>の達成値がわずかに足りず、発見できなかったアイテムでした。
牧師 「この村に古くから残されていた魔法の杖です。まだわずかに治癒の力が残っているはずです。役立ててください。」
クリス 「ありがとうございます!」
ミッケル 「よし! 傷を癒したらできるだけ休むぞ! やつらが来る前に少しでも体力を回復させるんだ!」
一行はまず、なるべく多くの女性、子供、老人を、村で一番大きな村長の家に避難させました。続いて、若くて体力に自信のある男性を数名、村の入り口に待機させて見張りを任せました。最後に残った男性達も、なるべく大きな家屋に避難してもらい、村人達の避難は完了。一行は一秒でも長く休息を取るために、手近な民家のベッドを借りて休みました。
村に戻ってからどれぐらい経ったでしょうか。もうすっかり日も落ちて、周囲には虫の鳴き声が響き渡っていました。そんな心地よい静寂を、村人の悲鳴混じりの叫びが切り裂いていきました。