第01話  Open the box  後編




村人A 「と、盗賊だぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」





目を覚ました一行はベッドから飛び起き、急いで村の入り口を目指しました。農具を構えた村人達の人垣を潜り抜けると、そこにはリーダー格と思わしき人物と、4名の盗賊達がいました。





グレイグ(盗賊のリーダー) 「お前ら…村の人間じゃねぇな。そうか、なるほど。俺の手下どもをかわいがってくれたのはお前らか。」


ミッケル 「お前の手下はバカばっかりだったぞ! 本当にどうしようもない連中だな!」


グレイグ 「ああ、俺もそう思うよ。…まったく、こんなガキ共にいいようにやられやがって、クズ共が。」


盗賊達 「お頭ぁ…すいません。」


クレア 「あなたは人のことが言えるほど利口なの?」


グレイグ 「どうだろうな? だが、少なくともこの場は紳士的に振る舞うつもりだが。」


ヤラ 「どういう意味だ?」


グレイグ 「早い話が取り引きだ。…お前ら、いくらで雇われたんだ? その額に金貨200枚上乗せするから、手を引いちゃくれねぇか?」


クリス 「バカにしないでください! ボク達はお金で困っている人を見捨てたりなんかしません!」


ミッケル 「手下が手下なら、頭も頭だな。お前みたいなバカと取り引きなんてしてやるか!」


グレイグ 「理解できねぇな。所詮他人だろ? どうしてそう簡単に命が賭けられる?」


ヤラ 「お前には一生わからないだろう。」


グレイグ 「ケッ、恐らくその通りだ。お前らの方がよっぽどバカだぜ。バカの考えなんて俺には一生わかりっこねぇな!」





グレイグが右手を上げると、盗賊達は彼の左右に展開し、武器を構えてニヤリとほくそ笑みました。応戦するために身構えた一行にグレイグは…





グレイグ 「お前らのバカが死んで治るもんかはわからねぇが、交渉決裂なら仕方ねぇ! 相手になってやるよ!」










こうして最終決戦の火蓋が切って落とされました。

…落とされたハズなんですが、開幕と同時に放たれたクレアのスリープでグレイグと手下2名が深い眠りに誘われ、起きていた2人のうちの1人は巨大化したヤラの手によって、ミンチよりもひでぇ状態に。

生き残った盗賊は必死にグレイグを起こしますが、再び投射されたスリープによって戦闘は終了。グレイグと数名の盗賊は一撃で致死ダメージを受けて死亡してました。鼻血が出る程に呆気ないボス戦でしたとさ。










村人C 「あんたらスゲェよ!!」


村人D 「ホントだよ! 若いのにたいしたもんだ!」


村長 「この度は本当に、なんとお礼をすればよいのか…」


ミッケル 「礼なんか必要ないぞ!」


クリス 「そうですよ! お顔を上げてください!」


村長 「もう夜も遅いので明日改めて、ささやかではありますが、お礼も兼ねた宴を催させていただきたいのですが…」


クリス 「わぁ! 本当で…」


クレア 「……………。」


クリス (…しまった! ボクはなんてバカだったんだ!)


クレア 「……………。」


クリス (事件は解決できたけど、ボクらはこれから険しい山道を乗り越えなければいけない…浮かれている場合じゃないんだ!)


クレア 「……………。」


クリス (姉さんはもう気持ちを切り替え、先々のことまで考えてるのに…それなのにボクはッ!)


クレア 「……………。」


クリス 「姉さん、ごめんなさい! ボクすっかり気が緩んでたよ! そうだよね、姉さんが思うとおり、これか…」


ヤラ 「なんだか申し訳ない気もするが…」


ミッケル 「せっかく開いてくれるんだ! ありがたく参加させてもらおう!」


クレア 「そうね、参加しましょう。 (即答)」


クリス (……あ、なんだ、いつもの展開じゃん。










翌日、一行は再び盗賊達がアジトにしていた洞穴へと向かいました。残党がいるなら叩いておかねばなりませんし、あまり期待はしていませんが何か金品が残っているかもしれません。

洞穴に辿り着くと、そこには先客がいました。恐らく、目の前のこの男が、盗賊達に人さらいを依頼した張本人でしょう。
スキンヘッドで、耳だけでなく口や鼻にまでピアスを付けており、服装は黒いハットに黒いジャケット。鋭い目つきをしてはいるものの、口元にはどこか余裕があるかのような笑みが浮かんでおり…温厚そうな印象と凶暴そうな印象が混在したような、何とも言えない怪しい感じが全身から滲み出ていました。










男 「んー? あんたらだーれ?」


クリス 「え…えっと…」


ミッケル 「ああ、道に迷ったところでこの洞穴が見えたから、中に入ってみたんだ。」


ヤラ 「そういうあなたは、こんなところで一体何を?」


男 「俺? ここで待ち合わせしてたんだけど、こーの様子じゃすっぽかされちゃったかなー。」


クレア 「そう、ついてなかったわね。」


男 「いやー、まったくだねー。んじゃ、俺はもう行くよ。」


ミッケル 「気をつけてな。」


男 「はは、どーも。あんたらも気ィつけてちょーだい。」





男はそう言うと、ニヤニヤと笑いながら一行の間を通り抜け、外へと出て行きました。見た目もさることながら、言葉遣いや立ち居振る舞いすべてが、どこか不気味な感じの男でした。




全員 「……………。」


ミッケル 「結局もぬけの殻か。もしかしたら連中に人さらいを依頼したやつが来てるかもと思ったんだけどな。


クリス 「えぇっ!?」


ヤラ 「じょ、冗談だろう?」


ミッケル 「ん? なに?」


クレア 「いや、どう考えたってさっきの男がそうでしょう…」










ミッケルにも意外と残念なところがあるようです。

洞穴の中には銅貨1枚たりとも残っておらず、完全に撤収済みでした。結局一行にとっては、事件の黒幕の顔を拝めたこと以外の収穫はありませんでした。

夕方、一行が戻ると、村はもうすっかり宴の準備を終えており、あとは主役の到着を待つのみという状態になっていました。主役はもちろんPC達。村をあげての盛大な宴が始まると、今までの旅の経緯や、今回の盗賊達との戦いなど…村人達からの質問攻めで、ゆっくり食事も出来ない状態に。でも、4人とも満更ではなさそうな様子でした。

楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去り、翌朝、一行は再びサウスゲートへ向けて出発することにしました。村長から、「冒険に役立ててください。」と、ミスラル製シャツや金品等の謝礼が手渡されました。クリスは断ろうとしたのですが、そう思った頃にはすでにクレアがお礼を言いながら受け取っていました。こういう時だけ即答です。





一行は残りの道のりを数日かけて歩ききり、ようやくサウスゲートへと到着しました。海、山、砂漠等、様々な地形が混在しているかのようなその神秘的な土地には、多くの人が集まります。

メインストリートは商人や旅行客、冒険者でごった返しており、歩くだけでも一苦労でした。マーケットで、謝礼として受け取った金品を換金し、4人に平等に分配しました。そしてその後、通りの宿で荷物を下ろした一行は、そのまま宿のカフェスペースへ。










ミッケル 「お前達はこれからどうするんだ?」


クリス 「ボクらはしばらくここに滞在します。いろいろと情報も集めておきたいですし。」


ヤラ 「私も、父さんについていろいろ聞き込みをするつもりだ。しばらくはここにいる。」


ミッケル 「そっか、みんな家族を探しているんだったな。」


クレア 「ええ。」


ミッケル 「じゃあ、ボクもしばらくここにいるつもりだから、何かあったら声をかけてくれ。」


クリス 「うん。またね、ミッケルくん。」


ミッケル 「ああ、それじゃあな!」


ヤラ 「じゃあ、私もそろそろ行く。」


クレア 「お父さん、見つかるといいわね。」


ヤラ 「きっと見つかる。父さんも、クレア達のご両親も。」


クリス 「ヤラさん、ありがとうございます。」


ヤラ 「それじゃあ。」


クリス 「姉さん、ボクらも行こう。」


クレア 「……………。 (無言でクリスを見つめ続ける)」


クリス 「や、宿代なら大丈夫だからっ!


クレア 「じゃあ早く行きましょう。 (スタスタと先を行く)」


クリス 「はぁ…ほんとにもう…」










こうして、無事にサウスゲートへと辿り着いた一行。それぞれの目的を果たす為に、今はただ、疲れた身体をゆっくりと休めることにしたのでした。

しかし…この時すでに"箱"の蓋が開かれており、世界中に災厄が降りかかろうとしていることに気付いている者など、この中には誰一人としていませんでした。





前編   中編   戻る